〜龍と刀〜
平和な時間X
−−あれから数時間が経過。
紗姫のお目当ての店はすぐに見つかり、そこで陽と井上はかなりの時間待たされた。更に、そこそこの出費もあり、井上の所持金はほとんど無かったりする。
「お前、居候してる部屋をどんな風に改造するつもりだ?武家屋敷の一部がメルヘンか?恐ろしいぜ……」
「陽ちゃん、人の趣味を貶しちゃいけないんだからね?女の子なんだから、あのくらい可愛いのが無いとねっ」
「さすが月華ちゃんね!話が分かるわ。どっかの誰かさんとは大違いよ」
井上と別れ、陽が総攻撃を受ける羽目に。言い出したのは陽だから、仕方ないと言えば仕方ないのだが。
「どうせ俺には分からねえよ……」
完全に蚊帳の外となってしまった陽は、すっかり日が落ちた空を見上げる。
冬が近いのか風はいつもより冷たく、夜空に輝く星は澄んで見えた。星座などは全く分からないが、純粋に綺麗だと思う。
「なあ月華、帰ったら鍋にしないか?」
「別に良いけど陽ちゃんの家に材料あったかな……?」
「今日の朝に冷蔵庫を見た限りでは良い物は無かったわね。闇鍋にするならまた別なんだろうけど」
唐突な陽のリクエストにもしっかり答える月華。そして、助言を与える紗姫。
「……何で紗姫が中身を知ってるんだ」
「それは、ほら、小腹がすいたから……何か無いかって」
「そうか」
正直なところ、冷蔵庫の中身などに興味は無いのだが。何となく口にしてみたかった。
「リアクションの薄さがなんか気になるけど……とりあえず油揚げは無かったわ。うん」
「ん〜何か良い方法無いかな?」
「あ、そうだ。月華ちゃんの家はどうかしら?」
「その手があったね!今から聞いてみるね」
何気なく口にした紗姫の言葉が打開策だったらしく、月華は携帯電話をカバンから取り出して早速、家に連絡を始める。
「良く思い付いたな」
「だってどうせ今日も行くんでしょ?だったら最初からあっちに居た方が楽じゃない」
「それもそうだな……だけどなぁ」
陽の頭に浮かぶ問題はただ一つ。月華の家で食事をするということは、十六夜も一緒だということに直結する。
家に入るまではまだ良いとして、同じ鍋をつつくとなると……考えられるのは小さな事だが、大きな争いに発展する、具材の取り合い。
すぐにその光景を想像出来てしまうのはとても皮肉な事だ。
「大丈夫だって!」
「お、悪いな急に言って。更に押し掛けるみたいになってさ」
「ううん、気にしてないよ。それにお母さんが今日のお夕飯何にするか迷ってたから丁度良かった、って」
無理を言ったつもりだったのだが、お礼を言われてしまうとは予想もしなかった。
助けになったら何よりだが、やはり十六夜の事が気に掛かる。そう思っただけで溜め息が零れた。
「油揚げ入ってるかな?」
「わかんないけど……何なら買ってく?すぐそこにスーパーあるし」
「そうね。油揚げの無い鍋は許さないわ」
「本当に狐さんって油揚げ好きなんだねー」
陽の心配なぞ知らず、話は進んでいく。
今日の夕飯はうるさくなりそうだ。
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