〜龍と刀〜
十二月第一週の休日X
その後は三人で回りつつ、いつものように勝負をする事に。クイズゲームでは共闘したがそれでも二人では中島を超えられず、ダンスゲームでは陽が圧倒的な運動神経で周囲を沸かせ、レーシングゲームにて井上が勝つというなかなか良い勝負を繰り広げている。しかしこうも得意分野がはっきり見えてくると勝負が付かない事も判明し、最終的にクレーゲームの前に辿り着いた。
「いやー相当遊んだな!」
「何でこいつに負けるやつがあるんだよ……」
「ふっゲームなら龍神にも勝てる!」
「じゃあお前これ落としてみろよ」
陽が指差したのは大きな熊のぬいぐるみ。これは落としたとしてもこれからの行動に支障が出るアイテムだ。しかし井上は勿論この勝負に乗ってくる。本当は菓子系統が食料として欲しかったが、負けがあるという気分がどうも納得出来ない。なので無理そうな提案を行ったのだ。落ちたら落ちたで面白い。
「え?こんなので良いの?」
「その口振りがすげえムカつくんだけど」
「まあ見てろよー」
「井上はゲームだけは才能があるからね……」
既に何度か両替していた事もあり、コインは充実している財布。さすがに重量がある。そこから何枚か抜き取り、手中に収める。しかしすぐに筐体へは入れようしない。
「何してるんだ?」
「ほら、位置とか確認しておきたいんでしょ?」
「ああそういうな……」
どうやら本気で狙っているようだ。これからの移動に荷物にもなると知らずに念入りに。筐体の横からもチェックしたところでようやく開始。まずは横軸の調整。
「それで落ちるのか?ズレてね?」
「知ってる?今時まともに吊り上げて落とすだなんて古いのだよ!今は引っ掛けたり転がしたりするのが常識だぜ!」
「さすがゲーセンに入り浸るだけはあるね」
「あ、あとこれ一回で落とせないからそこは許してくれよな!」
陽は思った。どうして井上に説明を受けているのだろうか、と。しかしそう言うからにはなかなかの手前だ。一回目では頭を持ち上げて転ばせ、二回目ではタグにアームを引っ掛けて穴の付近まで引き摺る。この時点で頭と体がほぼ落ちかけている。この状態で筐体を揺らしたら落ちるんだろうな、と邪な考えを持ったが、口には出さない。そして三回目。
「んで、最後に足を持ち上げて……来た来たぁ!」
アームがぬいぐるみの足を持ち上げる。そして、重力に引かれて穴へと吸い込まれていくのだ。
「ざっとこんなもんだぜ!どーよ!」
取り出し口から重そうに引きずり出して、陽の目の前に掲げる。しかし陽はあまり楽しく無さそうであった。
「……」
「え、何その威嚇するような目付き!?」
「お前は本当に井上なのか?」
何故他の事にその才能を発揮出来ないのかがどうしようもなく謎だったらしい。
「まあ良いや……それ、ちゃんと持って帰れよ」
「なに!欲しいんじゃないのか!?」
背負っているのでどうも熊が喋っているように見えなくも無い。やるのなら少しばかり動きを付けて欲しいものだが。
「普通に考えて……ああ考えられないか」
「そうだよ井上に考えろだなんて無茶苦茶だ」
「よしそれじゃあ飯行こうぜ。動いたから腹減ったわ」
「なんてこった……!これじゃあトレーニングじゃねえか!」
こうして井上は巨大なぬいぐるみを背負って移動する事に。端から見れば井上だとは絶対に気付かれないだろう。
「上の階にファミレス入ってるらしいよ。そこにしようか?」
「そうだな。じゃあ井上は一階から階段で来てくれ」
「いやいやここ二階だから!このまま行くよ!?何で下行かなきゃなんねえのさ!」
「もちろん面白いからに決まってるだろ」
相変わらず陽の遊び方は理不尽な点が多い。しかしこれも冗談で言っているのだ。本気だとしたらいじめに取られかねない。
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