〜龍と刀〜
死地へ
「……?急になんだよ」
唐突な宣戦布告に戸惑いつつも、アスラの言葉に耳を傾ける陽。
「簡単な話です。邪魔が入らない空間であなたと戦いたい」
「それが……真意なのか?」
「この手であなたを連れて行く。場所を変えればあなたの仲間にも迷惑は無いはず」
背後で控えている三人には無理をさせたくない。だったら答えはとっくに決まっている。
「良いぜ。その話、乗ってやる」
「陽、本気か?罠かも知れんのだぞ?」
「ああ……何とかなるだろ。そういう訳だ!あとはよろしく頼むぞ!」
白銀の忠告を聞き入れず、魔物の軍勢と交戦中の仲間たちに−−主に聞こえる範囲に居る人間に−−声を投げた。
「ちょっと待ちなさいよ!何でこのタイミングで一人で行くなんて言ってるの?」
「ん〜僕は別に構わないんだけどね〜。龍神がやる事に口出すつもりはないし〜」
「ワタシも気にしないが……ワタシの依り代が嫌がっている」
三者三様の反応を見せるが、陽はもう決めたのだ。今更決定を覆すつもりは無い。
「別れの言葉は、終わりましたか?」
「ああ。俺はあんたを倒して戻って来るから、それまで雑魚どもの相手は任せたぞ、ってな」
「そうですか。では、行きましょう」
アスラが腕をかざすと、眼前には人一人分の門が出現した。装飾も無く、ただその役割を果たすためだけの灰色の門。
「この先で待っていますよ」
まずはアスラが一歩踏み入れ、闇に消える。あの中にはどんな物が待ち受けているのか、考えるだけで身構えてしまうのは何故だろうか。
「本気で行くつもり!?」
魔物の壁を打ち破って近付いてきた紗姫が切羽詰まった声でそう言うと、
「そりゃあ行くしか無いだろ。あいつは……あいつを倒せるなら何か大きな進展があると思うんだよ」
対する陽は確信を持った態度で紗姫を宥める。
それでも納得しないだろうというのは予想の範疇だ。
「だからって、何も一人で行く必要は−−」
「そうかも知れないな」
「じゃあ!」
「だけど、俺一人で行くんだ。紗姫にはここで頑張ってもらいたいんだよ」
紗姫の性格からして簡単に引き下がらない事は分かっている。
それを崩すには、優しさを見せるのが有効な手だという事も。
「龍神〜死亡フラグは立てるなよ〜?この戦いが終わったら〜とか禁句だからな〜?絶対だぞ〜?」
雰囲気をぶち壊されてしまった。
いや、彼なりの思いやりが込められた言葉だと思えば良い。
「はいはい……そういう訳だから、紗姫。よろしく頼むな?」
もう言いたい事も忘れてしまった陽は、乱暴に紗姫の頭に手を置いて撫でてやった。
「仕方ないわね……この分の埋め合わせ、ちゃんと考えといてもらうから」
言いながら頭から狐の耳、腰の辺りから尻尾を生やしある程度の力を解放する紗姫。
それを満足げに見届け、陽も門へと向かう。
「あ、おい少年!ワタシの依り代も頭を撫でて欲しいと、心の中で騒いでおるのだが!」
その足を引き留めたのは月詠の一声だった。
仕方なく月華の頭も撫でてやり、今度こそ門の中へと侵入する。
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