〜龍と刀〜
闇の猛襲U
行き交う人々。その流れを断ち切るように、陽は白銀を片手に人混みを渡る。
「どこに、向かってるんだろうな……この人たちは」
「さあな。だが、混乱から逃げようとするのは当たり前の行為だろう?」
「確かにそうなんだけど」
逃げ惑う中に、見知った顔が流れた気がした。こんな状況下で暢気に挨拶などしていられない。
「まずは一体目の登場か……」
二メートルはあろうかという巨体を持った、鬼−−見た目からの判断だが−−が陽の行き先を拒むかのように仁王立ちしている。
「こんなのが立ちふさがってたらそりゃ逃げるわな……」
「うむ。一般人にはあり得ない光景だからな」
両手にはその巨体に似合う棒。
イメージされるのは金棒だと思うが、この鬼が手にしているのはただの棒だ。荒く切られた無骨な、岩にも金属にも似つかない棒が二本。
「貴様を連れて行けばこの嶽鬼(ゴクキ)が一番に夢を叶えてもらえるのだ!さあ、大人しくしているが良い!」
左手に持っていた棒を勢い良くアスファルトに突き刺す。当然ながら深く差し込まれた棒はちょっとの事では抜けそうにない。
「残念ながら、こっちもそう易々捕まってやる気は無いんでな!」
迫る大きな左手を素早い振り上げで傷付ける。
飛び散る赤い鮮血。近くにあった建物の壁や看板、当然アスファルトも真っ赤に染まる。
「ん……?何だ、この程度の傷。舐めてれば治る」
ゆったりとした動作で左手を引き戻し、分厚い舌で自分の手のひらに付着した血を舐めた。
その行動になのか、陽は顔をしかめる。まるで何かを失敗したかのように。
「何だ今の……」
「術式では無かったな。元からの性質か」
「あの硬さは厄介だぞ?」
まるで岩を斬った時のような感じだ。かろうじて皮膚を削って血が流れた程度。
白銀を構えて嶽鬼を睨む。
「ふむふむ。俺の恐ろしさを体感して目つきを変えたか?」
深く突き刺さっている棒を無造作に引き抜く。パラパラと地に落ちるアスファルトの破片。
「だが、いつまでも俺ばかりを相手にしていられるかな?」
「それはどういう−−」
嶽鬼の背後、きちきちきち、と奇怪な音を立てながら近付くのはボロを纏った人型。見える部位は全て白骨。
更に上空、鳥のようなコウモリのようなのが二体旋回している。
いつしか流れていたのは人ではなく、異形の化け物たち。
「現代の百鬼夜行とはまさしくこれだな」
「さすがにこの数を一人でやれ、なんて言われたら無理だと答えるぜ。しかも、こんな強いのが紛れてるなら尚更だ」
囲まれた。
この状況では下手に動いて失敗しかねない。かと言ってここでやられてやる義理は無いし、連れて行かれたくもないのだ。
「だったら、やるしか無いよな」
「うむ。そう言うと思っていたぞ」
白銀を下段に。
瞳を閉じて集中。
「この数相手にやる気か?面白い!」
嶽鬼の気持ちの高ぶりが伝染したかのように、不気味な叫びが響く。
「動かないなら、こちらからやらせてもらう!」
両手に握り締めた棒が唸りを上げて陽へと向かう。
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