〜龍と刀〜
裏方のプライド
*****
−−翌朝。
目をほんの少し離しただけなのに、尋問室の結界にオーブルの姿は見当たらなかった。そこにあったのはズタズタに引き裂かれ、見るも無残な姿に成り果てた黒いローブだった物が一着。
「これは……幸輔、この羽根は前回戦ったというアスラとか呼ばれる者の羽根か?」
祖父が持ち上げた一枚の羽根には見覚えがある。漆黒の騎士の背中にあったのと同じ羽根。
「一体どうやってここに侵入したのだ……この場所は我が流派の幹部にしか伝わらない部屋であったはず」
「すみません……ボクの、責任です」
珍しく語尾が延びない幸輔だったが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
「いや、お前は良くやった。重要な情報を敵から引き出したのだからな。それを伝えるために出て来たのだろう?」
「それは、そうだけど……」
「なら叱責など必要ない。今やるべき事、幸輔には分かっておるよな?」
「協会に早く伝える。そうだった……こんな失敗でめげてられないよね」
暗い顔もすっかり晴れ、立ち上がる。やらなければならない事があるのだから。
「長への直通は……」
「分かってるって〜。伝達用式紙の中でも獣型でカラス。更に緊急用として赤の方が良い。だよね〜?」
「ああ。良く分かっている。では、任せたぞ……今から京都に向かわねばならぬからな」
祖父はスタスタと−−正確には足音は立てていないが−−尋問室を後にした。京都に向かう理由は、これから行われる事になるであろう緊急会議に出席するためだ。
幸輔がオーブルから得た新たな事実を議題に。
「……さて、ボクもやられたままというのも気が済まないからね。一矢報いさせてもらおうか」
床に捨てられたままの黒いローブを拾い上げて言う声には強くしっかりとした怒気が込められている。
「ボクが裏方の仕事がどれだけ得意かって事、敵さんに示してやらないと……術式展開−−」
何も無い空間にローブが浮かび、幸輔の手には薄緑の魔法陣が出現。
「−−我は探す、主の心を掻き乱す不届き者を」
ローブに光が収束し、輝きを放つ。集まったはずの光は数本に分散し、何かを追い求めているかのようにうねうねと動き始めた。
「その卑しき姿を主の御前に晒せ……探索術式、範囲指定無し。指定するのは姿。西洋の鳥で漆黒の鎧を身に着けている。名を−−」
飛び去る方向が決まったのか、動いていた頼りない光は今や真っ直ぐ伸びた槍のようだ。
次の一言を継ぎ足せば、術式は完成し、魔術が発動する。
「−−アスラ!」
幸輔の鋭い号令と共に光はまさに光の速さで散った。
その場に残されたのは幸輔とボロボロとなったローブのみ。
静寂が支配した尋問室。
「次は伝達用の術式だったね〜。ちゃっちゃと終わらせちゃいますかね〜?」
口調も再び元に戻り、ローブ片手に尋問室を去る。
次の仕事をしなければならないからだ。
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