〜龍と刀〜
拷問か?
家に到着し、一息つこうとした矢先だ。いきなり後頭部を殴られた。
「いってえ!」
殴られたのは別に大丈夫だったが、足に引っ掛かった紐か何かで、顔面から床にダイブ。そっちの痛みの方が強い。
「な、なんだってんだ……?」
強打した鼻をさすりながら振り返ると、何やら不穏な空気を醸し出す月華が、仁王立ちで見据えていた。背後には紗姫も居る。
「ねぇ陽ちゃん、何か言いたい事は?」
「いや別に……無い、んだが?」
思い当たる節が無いし、格段遅く帰って来たつもりもない。何か約束でもしていただろうか、とも思案してみた。
「本当に?本当に無いのかな?……紗姫ちゃん」
「分かってるわ。吐き出すまで叩いても良いのよね?」
竹刀を持ち出していた紗姫が陽の頭に一撃。当然ながら、痛い。
「ちょっと、待て!何の事だよ?紗姫も一旦止め!」
さすがに無言で叩かれるのは納得いかないので、少しばかり声を荒げてみた。しかし、紗姫の手は止まる様子が無い。次第にエスカレートしていくだけだ。
「陽ちゃん、正座」
「はい……」
言われるがまま陽はその場に正座。昔の拷問を受けている気分だ。
「単刀直入に聞くね?その……お手紙は誰から?やっぱり、女の子から、かな」
「答えるまで叩くから。そのつもりで」
叩く力は弱められたが、その代わりに足を影で縛られた。逃げ出すのは許されないらしい。
「告白、されたりとかなの?」
「私は別に興味無いのよ?龍神君が誰と付き合おうと!」
木魚よろしく頭を叩かれながら、何と答えるべきか考えてみた。だが、そこまで二人が気にする理由の方が気になる。
「どっから漏れたんだよ……大丈夫だ、お前らが思ってるようなんじゃねえよ。手紙の差出人は男だ」
ピタリと竹刀が止まった。それと一緒に空気まで止まってしまったような気がしないでもないのだが。
「それは……どういう……?」
「そうなの……龍神君の趣味をとやかく言う気は無いから。お幸せに」
「……あっ!違う、勘違いだ!紗姫、悟ったように距離を取るなっ!月華も泣くなー!」
言い回しをミスしたみたいだ。盛大に困る勘違いをされてしまった。
「うぅ、ぐすっ……じゃあ何だったの?」
目尻に涙を溜めた月華が問う。紗姫の影からも解放され、足が自由になった。
「あれは……そう、果たし状だ!」
壊の表現をそのまま頂く。実際嘘ではないが。
「果たし、状……?」
「ああ。決闘のお誘い」
安堵したように溜め息を吐いたと思えば、正反対の心配そうな表情に。これには紗姫も黙っていられなかったらしく、
「決闘って……わざわざケガしに行くの?そんなの、心配するわよ……」
「そうだよ!ケンカとかはいけないんだよ?」
「だがな……退く訳にはいかねえんだよ。あいつとだから、特にな」
心配してくれるのは嬉しいが、それでもやらなければいけない。これは二人を守るためでもあるのだから。
「ホント、男ってそういうの好きよね。何が楽しいんだか」
「分かってくれよ。な?」
「あんまり気は進まないけど……その代わり、もうちょっと取り調べをします!」
月華が折れてくれたお陰で、話は終わりかと思いきや。
「あ、おい……」
「とりあえず、道場で正座ね」
「そういう事。逃げようなんて考えちゃダメよ?」
どうやら拷問まがいの詰問は、まだまだ続きそうだ。
首根っこを引きずられるようにして、連行されていく。こんな状況に陥れたのはきっと。
「くっ……井上!あの野郎かぁ!」
憎き頭の悪い奴に恨み言と呪詛の言葉を。とにかく明日は朝一番で井上に攻撃を加える事が決定した。
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