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〜龍と刀〜
影の主U
紗姫の手に握られているのは両刃の大剣だ。白銀によると、これも繰影術の力らしい。影を繰り、物体に纏わせて疑似的に違う物体として装うのだ。紗姫が持っていた折れた竹刀に繰影術を使ったという事。

「影だってのにどうしてこんなに重いんだっ!」

白銀で防いでいた大剣に、最近少しだけ使えるようになった火気の魔術を叩き込む。鋭い閃光と、激しい爆発が巻き起こり、二人の距離は一気に開いた。
剣を交えて分かった事が一つ。紗姫の戦い方だ。剣道の時もそうだったが、決して自分からは攻め込んでは来ない。その変わり反撃の威力がかなり高く、気を抜けば確実にやられてしまう。

「夜ってやっぱりいいわ……だって影だらけなんだから!」

紗姫が右手を近くの木に触れさせると、地面に映っていた影が伸び、陽の足元から飛び出す。地面から伸びた槍は、陽の頬を切り裂く。
流れ出す血。すれすれでそれを交わせたから傷は浅い。止まるのも時間の問題だ。

「厄介だな……近づけばカウンター、離れれば繰影……」

走りながら、繰影術で出現した人型や槍などを斬っていく。幸いにも、繰影術で作られた影は弱かった。紙切れ同然に感じる程だ。

「白銀!何か方法は無いのか!」

四方から来た人型を飛び上がって回避し、追い抜き様に斬りつける。

「少し待て……我の記憶の繰影術と合わせ、繋がったら話す。それまで耐えろ」

それだけ言って白銀は沈黙してしまった。どうにかして紗姫を止める。それしか無かった。
足を止め、紗姫に向き直る。

「紗姫、一つだけ聞け。俺が勝ったら全部話せ。……考えたくは無いが『永遠の闇』の一員ならその事もな」

白銀の剣先を離れている紗姫の顔に向けた。覚悟を決めたのだ。

「いいわ。話したげる、全部。私に勝てたらの話だけどね」

自らの影を大量の人型として出現させる。今までと同じなら、一撃で破壊するのは造作もないが、こんな時に、数に頼るような馬鹿をやるとも思えない、だとすれば、紗姫が全力になったと考えるのが正しい。その証拠に、獣族の象徴たる耳と尻尾が姿を顕した。

「獣族の狐種(コシュ)か。そうか、それで金髪な訳だ」

人化する際、狐の毛色がそのまま髪にも出たらしい。それを一人で納得している陽。

「よそ見禁止よ!」

わっと一斉に動き出す人型。一体が両腕を合わせて、陽へ目掛けて振り下ろした。

「なっ、強くなってやがる……!」

土煙の合間から見えたのは、クレーター。地面は完全に抉れ、粘土質の土が露わになっていた。
土煙を払うように飛び出したのは、銀色の一閃。紗姫自身が動いたのだ。

「そろそろ真面目にやらなきゃね……大変なのよ、色々と」

続いて繰影術の槍、更に人型、という猛攻に、陽は防戦一方だ。一つに集中しすぎれば他への対処が遅れ、全てを相手にすれば一つ一つに対する注意が足りなくなる。目に見えるぐらい、不利。

「久しぶりにやるか!白銀!」

白銀に纏わせた水気を、居合いの動きで大量に解き放つ。

「うむ。術式、変化」

放った水気を目眩ましとして使い、その間に白銀が術式を組み上げる。

「龍牙・白銀!」

その術式に陽が魔力を流す。
白銀の鍔が変化し、龍の顔を形作り、水気を滴らせる。炎燈との戦いで使って以降、あまりの魔力放出量に使うのをためらっていた。一体ずつ相手にするよりは、まとめて相手に出来る水気で対抗しようと思ったのだ。

「確実に、一撃で繰影のデカいのをぶっ壊して、紗姫の手から剣をはじく。加減は無しでな!」

再び姿勢を低くし、腰の辺りで白銀を構える。

「何をやるのか知らないけど……行って!」

紗姫が人型に命令する。数十の黒い壁が出来、じりじりと迫っているのを確認して、陽は白銀を握る手に力を込めた。
白銀の刀身には、垂れ流しになっている膨大な水気。陽はそれに魔力を上乗せして、水圧の刃を作っていた。

「もう少しだ……おぉぉ!食らえ!」

一気に、渾身の力で白銀を抜く。
解放された刃は、これでもかと言わんばかりに人型を真っ二つに引き裂いた。何体か残ってしまったが、かなり減らす事が出来た。この数なら、多分大丈夫だ。

「ぬ、思い出したぞ……繰影術の事を。心して聞け、陽。そして、獣族の娘よ」

白銀が口を開く。その情報は、何故か陽にだけでなく、紗姫にも与えるらしかった。

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