〜龍と刀〜
術式空間U
コツ、コツ、と夜の学校に二人の足音が響く。外の音まで細かく作られていないのか、ほぼ無音の状態だ。
屋上から理科室までは三分と掛からない。その間二人は、緊張のせいもあるのか会話が無かった。
「ん、ここだな……」
陽がピタリと足を止め、模造剣を腰だめに構える。剣で抜刀をするのも変な感じではあるが、用心のためだ。
「……開けるぞ。少し下がってた方が良いかもな」
「は、はい」
鍵が掛かって無い事を確認し、器用につま先で理科室の戸をゆっくりと開け、特に意味も無く剣を前に突き出してみた。
「ぐはぁ……!」
「あれ?」
どうやら何かが刺さったみたいだ。手応えがある。刺された相手を見るためもあるが、剣を握る手に力を込めながら前に進み出た。
「ぐふっ……良く、わたしを振り切った」
月明かりに照らされた室内、剣に刺さっている“物”を見て、絶句。
「……」
「だがなぁ、わたしの後にも」
カクカクと動く口、内蔵が見えている体の半面。明らかに、コレは−−
「人体模型だな」
「ですね……」
そう。理科室と言えば人体模型だ。どうやら自らの意志がある訳では無く、インプットされたフレーズを喋っているだけらしい。
「まさかこんなのが何回も続くのか?剣とかいらなくねえか?」
「一応アトラクションだから仕方ないかと……あ、龍神さん、人体模型のお腹の辺りが……」
光ってますが、と聞こえた時にはもう手遅れだ。人体模型の鳩尾が発光し、有無を言わさず、四散。
「けほっ、けほっ……龍神さん?大丈夫ですか……?」
「あぁ、俺は大丈−−ちょっと待て。いきなり剣が失われたぞ?勇者は素手で戦えって言うのか」
人体模型に刺しっぱなしだった剣は、見るも無残に根元から折れてしまっている。これではもはや使い物にならない。
「鈍器としてなら使えないでも無いが……」
柄だけを見つめ、呟いた。だが、それは使い方が間違っている。
「どうしましょうか?」
「春空、次はどこだったか分かるか?」
「はい。……」
懐に忍ばせていた地図を取り出し、パラパラと音を立てながら広げる春空。
「次は……音楽室ですよ」
「これも定番だな。勝手に楽器が鳴ったりとかだろ?……楽器か。武器になりそうなのがあるかな」
何故か武器にこだわる陽。やはり剣が壊れたのが気に入らなかったのだろう。
「さて、行くか……と思ったが音楽室はどっちだ?」
「え?」
散り散りになった人体模型の一部を尻目に理科室を出ようとした陽だったが、重大な問題が発生した。なんと、音楽室の場所が分からなかったのである。
「いや、音楽ってさ四時間目だろ?ちょうど眠い時間帯だから覚えて無いんだよ」
「ふふっ……ぁ、ごめんなさい。つい」
「んー、そんな面白い事か?まぁ良いや。春空なら分かるだろうし、案内よろしくな」
そう言って過去を思い返す陽。彼女は、本当に良く笑うようになったと思う。あの頃とは別人のように。だが、これはまた、別の話である。
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