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〜龍と刀〜
肝試しX
逃げる事を選択した陽は、今にも走り出す態勢に入っている。隙あらば春空を抱えてでもこの場を脱出するつもりだ。

「ま、待ってくれ!」

右足を後ろに下げた時。スキンヘッドの男が何の目的があってか、大声でそれを制した。

「……実は俺たち、ここのアトラクションの係員なんだ!だから開店前に君たちに遊んで貰おうと思ったんだよ!なっ!」

「そうだぜ坊主。でよぉ、それで着ぐるみになったら、こいつら皆気絶しちまってさぁ!ガッハッハ!」

苦しい言い訳である。
最初に話を合わせろ、との会話が聞こえたのは言うまでもない。

「……じゃあ何で縛り上げてるんだよ」

二人の言葉を聞いて警戒レベルは更に増す。

「それは……」

二人がアイコンタクトを取っている。余程気が合う二人なのだろう。でないとその一瞬だけで同じ言葉が発せられる訳がないのだから。

「「コイツの趣味だ!!」」

ビシィッ!と勢い良く同時に、お互いを指差す。息が合っているのは間違いないのだが。

「……」

「あー……警察か?それとも協会か?」

呆然と立ち尽くす春空と、繋がらないのに、携帯電話片手にどこかへ連絡しようとしている陽。

「犬!合図しただろう!?」

「その通りに行動したじゃねえか!お前がズラしたんだろ!むしろあってるじゃねえかよ!」

「はぁ!?」

話が進む気配が無い。

「別にあんたらの趣味なんざどうでも良いんだよ。さっきの話が本当なら、趣味で縛ってる皆を解放しろ」

仕方なく陽が話を促す。いつでも逃げれる態勢は変えずに。

「だから趣味じゃない!……まあ、こっちの条件を呑んで貰えるならすぐにでも解放する」

「条件?」

コクリと頷くスキンヘッドの男。彼の指にはいつの間にか鍵が握られている。

「この小屋の奥にある術式空間、もといアトラクションをクリアして来て欲しいんだ」

「中身は危険は無いと思うがな。迷った時の事を考えて二人以上で行ってくれ」

術式空間というのは、名の通り術式で作られた空間だ。陽たちが使う結界とは別物で、空間内部を細かい所まで弄る事が可能。ただ、とてもデリケートな上に常に魔力を注ぐ者が居なければすぐに崩壊してしまう。

「二人以上って言われてもなぁ……」

春空に視線を移す。彼女は未だに陽の背後に隠れるようにしながら、スキンヘッドと陽の会話を聞いていた。

「(本来なら紗姫を連れてくべきなんだろうが……あっちは捕まってるし)」

この場に居て動けるのは春空のみ。巻き込む訳にはいかないが、かと言って他の四人を見捨てるつもりも無い。

「私は……大丈夫ですから」

陽の服の裾をキュッと握って、絞り出すように声を出した。その声は震えていて、怖がっているのが分かる。

「交渉成立、か?」

「そうだな。ここまで来て引き下がるのは、俺じゃねえ。さっさと終わらせてやるさ」

投げ渡された鍵をキャッチし、ゆっくりと歩き出す。それに伴い、春空も後を追う。

「解放しといたぜ坊主?戻って来る頃にゃ起きてるだろうよ」

手刀でロープを切り、優しくその場に寝かせる男。案外優しい部分があるらしい。

「二名様、ご案内〜!」

陽が鍵を開け、スキンヘッドの男が扉を開く。出来ればこんなのには案内されたくは無かったが。
扉からは眩い光が伸び、二人を包み込んだ。

「……行ったか」

「計画通りだ。第三段階に以降するぜ」

二人が居なくなった小屋には不敵な笑い声が響くのであった。

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あきゅろす。
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