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〜龍と刀〜
肝試しW
足跡が続いている道は、先程まで歩いていた道の数倍悪い。いや、道とも言えないぐらいだ。ごく最近、何者かが通ったという痕跡がある程度。

「なあ春空、この先に何があるか知らないか?」

足元にあった大きな石を横に蹴り飛ばす。こうでもしないと、どこで躓くかわかったものではない。

「えっと、確か崖、だったかと……」

陽の背後に隠れるようにして進む春空。時折、葉が擦れる音にすらビクリと体を震わせる。それに、時間も時間だ。旅館の人もそろそろ心配し出す頃だろう。

「なるほど、端っこの方か。……それに海も近いみたいだな」

風に乗って潮の香りが運ばれてくる。
そして、足跡にはこの辺りから何回か往復した気配が滲み出ていた。

「明かり……?誰か居るのか」

「小屋があるみたいですね……あそこに皆さんが居るんでしょうか」

森の出口、視界が開けたそこには一棟の木造の小屋。雑な作りで、いかにも即席感がいなめない。急ごしらえ、寝床の確保、そんな言葉が相応しい小屋には小さな明かりが灯されているのが確認出来る。

「……ょ!……で、目標……!」

「うるせ……な!こちとらお前が−−」

ゆっくりと近付いていくと、中から野太い男の声が二つ聞こえてきた。何やら揉めているみたいだ。
窓のような場所−−四角く切り取っただけ−−から中を覗き込むと、

「あの、これって犯罪の現場じゃないんでしょうか……?」

一般人の春空の視点から見ればただの犯罪現場なのだ。捕まった四人は、手を柱にロープで固定され、眠らされている。

「真っ先に突入したいんだが……下手に刺激するのもマズいか」

いつもの陽なら考える暇も無く突入を選んだだろう。しかしそれをしなかったのは、この壊れかけの小屋に魔術的な結界が張り巡らされているという事と、先程の足跡が獣の形をしていた事。つまり、どちらにせよ皆を戦闘に巻き込んでしまう可能性が高いのだ。

「携帯は通じねえ、今から戻る訳にもいかない……どうしたもんかな」

そう言って背中を小屋に預ける。すると、パキッと乾いた音が無駄に静かな空間に響く。

「ちょっと休戦だ、犬……物音しなかったか?」

「あぁ!?誰が犬だ!そのハゲ頭食いちぎるぞっ!」

「ハゲだと……!お前、外に出ろ。スキンヘッドの侮辱は許さん」

険悪モードの犯人たちが外に出る雰囲気だ。これはまたとないチャンスだが、リスクも大きい。魔術師同士のいざこざだ、飛び交う魔術を避けながらの救出は難しい。しかも、さすがの陽でも一気に四人も運ぶのは無理だろう。

「さあ、始めよ……ぁ」

「何突っ立ってやが、る……」

思案している最中。まさか小屋の一部を破壊して登場するとは思わなかった。
犯人たちと目が合う。その目は獲物を狙う目だ。

「走れるか、春空?」

「……龍神さんの速さに追い付くのは無理です……」

選択肢は三つ。立ち向かう、来た道を戻る、道も分からない森を駆け抜ける。


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