〜龍と刀〜
決めた事
*****
−−翌日の早朝。
「ふぅ……今日で早起きともおさらばだな。長かった……」
月華へのプレゼント、月光輪を見つめる。腕輪に直接刻まれた術式を、どうやって言い訳するか考えているのだ。
「にしても、これ着けてたら目立つよな?今更だけど」
「本当に今更だな。かと言って渡さぬ訳にはいかないのだろう?」
「まあな。俺の貴重な睡眠時間を削ってまでやったんだぞ?それを徒労で終わらせたくないし」
そんな愚痴にしか聞こえない会話をしていると、階段を上がる足音が聞こえて来た。
「よいしょっと……さて、なんて言って渡そうか?」
考えは結局纏まらず、扉が開く。
「あれ?今日はキツネさん居ないの?」
「狐?(ああ、紗姫の事か)……あ、あいつな、窓開けてたら逃げたみたいなんだよ」
昨日の朝、狐状態の紗姫を見るや否や「可愛いー!どこで拾って来たの?」と、はしゃぎながら抱き付いていた。
「残念だなー……」
本気で落ち込んでいるらしい。
「まったく……ほらよ、月華。誕生日プレゼントだ」
とっさに頭の中に浮かんだ平凡な言葉。
自分では多分これぐらいしか思い付かないから、と苦笑しながら月光輪を手渡す陽。
「ありがとう!買った時よりキレイになった?」
「そりゃそうだろ。かなり磨いたからな」
目を輝かせて月光輪を腕に嵌めたり、外したりする月華。ここで、陽の想定していた質問が飛んできた。
「これ、なんて彫ってあるの?英語じゃないみたいだけど……どこの言葉?」
「んー、言葉っていうか何というか……まあとりあえずお前の想像に任せるよ」
本当の事は言えないのもあるが、朝から考え事をするのが面倒になった陽は、適当に答えを返す。
すると月華は、じーっと文字を眺め始めた、と思えば見る見るうちに顔が赤くなっていく。
「何を想像したんだ、何を?」
「え!?いや、何でもないよ、何でも!さ、早く学校行こっ」
「別にとやかく言うつもりは無いけどな……」
カバンに弁当を入れて持ち上げる。そして深い溜め息を吐く。
「学校か……今日終われば休み、頑張ろ」
気だるそうに、スニーカーに足をねじ込む。
外へ出ると、門の所で月華が話しをしている姿が目についた。死角になっていて見えないが、ちょうど通りかかった友達だろう。
「陽ちゃん、お客さんだよー!」
「……こんな時間に?」
陽の客と言えば、大抵が協会関係者だ。だが、協会の人たちは、何故か夜を好んで会いに来る場合が多く、陽もそれが普通なんだろうと割り切っていた。
小走りに近付いて、陽は目を疑う。なんと、そこに居たのは−−
「おはよう、龍神君」
−−何やら大量の荷物を持った紗姫だったのだ。
「えーっと、剣術習おうかなって思ってね?家から通うのも面倒だから住み込もうかなって」
それ故の大荷物、という訳らしい。
「はあ!?ちょっと待て、それはどういう−−」
「ねえ!この人誰なの?陽ちゃん!」
紗姫と月華に挟まれて、頭を抱える陽。何やらとても騒がしくなりそうな、そんな予感が心をよぎる。
「それじゃ、よろしくね龍神君!」
〜龍と刀〜
第4章「影を操る少女」 終
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