〜龍と刀〜
目覚め
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目が覚めたそこは、見知らぬ天井。周りを見回しても明らかに知らない場所だ。知っているのは、二点。鞘の無い日本刀と、持ち主の少年。
少年は、壁にもたれ掛かって静かに眠っていた。
立ち上がろうと体を動かした時に、自分の状態に気付く。元の姿−−狐の姿に戻っていたのだ。
「起きたか」
紗姫に声を掛けてきたのは、陽ではなく白銀。
「ここは……?」
狐の姿で喋るのは余り好きではなかったが、わざわざ人化するのも億劫だったので言葉を交わす。
「陽の家だ。事情は陽が起きてからで良い……まず陽が起きたら一言礼を言っておく事だな」
爪で床を傷付けないよう慎重に歩み寄る。畳なので、自分で引っ掛けたくないというのもあるのだが。
「お礼?どうして?」
「ふむ、分からぬか。……ここまで運んで来た事、夜通し傷の治療を行っていた事、傷つけられた相手をわざわざ助けた事だ」
寝息を立てて眠っている陽の手元を見てみると、『術式の心得・上級者編』が置かれていた。
折り目の付けられたページを鼻で器用に捲る。そこには複雑な術式を用いる高等魔術が載せられていて、見る限り、紗姫にも難しいみたいだ。
「これを、私に?」
「そうだ。魔術の不得意な陽がやったのだ。……体に痛みなどは無いだろうな?」
白銀も最終点検をしたが、陽の事だ。加減無しに魔力を注ぎ込んだ可能性が高い。
「別に……少し眠いかも」
そう言うなり陽の隣で体を丸める。まだ日は完全に上がっていないらしく、窓から見た外はまだ薄暗かった。
*****
「っしゃあ!出来たぜ!」
紗姫が次に目を覚ましたのは、午前六時。陽の大声によって起こされた。
机に向かっていた陽は、作業をしていたと思われる輪を掲げる。そこには、英語にも漢字にも似つかない文字らしき物が刻まれていた。
「後は埃を払って、磨けば完璧だな!」
引き出しから筆を取り出して念入りに埃を払い、近場にあった布で表面を磨く。光を反射して金色に輝く腕輪。
「あ、悪い、起こしたか?」
興奮していたのか、紗姫が起きた事に気が付かなかった。
「あの、昨日はごめんなさい……それと、助けてくれてありがと」
「おう。昨日の事は気にしなくていいぞ?先輩の言い出した事に付き合わされたってだけなんだろ?」
深い溜め息を吐く。
「紗姫が倒れた後、考え直したんだ。そう言えば先輩が紹介したんだよなって」
紗姫に向き直り、言葉を続ける。
「それで先輩を問いただしたら……まあ、そういう事だ」
「本当にごめんなさい。やっぱり人化して謝らないと……」
「待て!今は戻るな。色々とマズいんだよ……お前にとっても、俺にとっても」
小さな瞳を閉じた紗姫に陽は慌てて制止を掛けた。
「で、でもそれじゃ示しが付かないじゃない!」
「頼むから!双方にとって戻らない方が良いんだ。特に俺の場合は二重に危険になるんだからな……」
両手を合わせて懇願する陽に、紗姫は渋々といった感じで了承。
「それと、今から喋るなよ……鳴き声は良いが、人語は絶対にダメだ」
陽が喋り終えるとほぼ同時に、扉が控えめに開かれた。
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