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〜龍と刀〜
影の主W
「(さすがに……そろそろ限界かも。色々と)」

陽を捉え、大剣を振り上げたまでは良いが、次の一歩が踏み出せない。
視界は揺らぎ、焦点が定まらなくなる。余りにも消耗し過ぎたのだ。
力なく大剣を地に突き刺し、それを支えにしてかろうじて立っているような状態。
対する陽は未だに目を閉じたまま。
白銀を手にしていない時に使えるのは、魔術のみ。紗姫に気付かれないように、密かに術式を組み立てている。
だが、その魔術は使われる事は無かった。
ドサッという音がしたと思えば、手足を拘束していた影が消滅。陽は地面に落とされた。

「なにが……?紗姫?おい、しっかりしろ!」

今し方聞こえた音は、紗姫が気を失って倒れた事による物だ。大剣に掛かっていた繰影術も消えて、ただの折れた竹刀になり果てていた。
様子がおかしいと感じ取った陽は、戦意を捨てて紗姫に呼び掛ける。
呼吸は荒く、いかにも苦しそうだ。

「熱があるな……とりあえず、家まで運んだ方が良いのか?」

「うむ。様子見も兼ねて治療だ。我は後で式神で喚べ……我を持ったまま走れば邪魔になるだろうからな」

体が軽くなる。多分、陽に抱え上げられたのだろう。

「……後で、全部話してもらうぞ」

その言葉を最後に、紗姫の意識は闇に溶けた。


*****


そこは、木々に囲まれた世界だった。
春には桜が咲き、夏には川のせせらぎを聞き、秋には色鮮やかな葉が飾り、冬には雪が大地を包む。そんな平穏な日常が繰り返されるはずだった。

ある夏の日。人間が山に入って来た。それはいつもの事だから、と思ったが、皆手に機械を持ち、いきなり木を伐採し始めたのだ。
獣族が人間に影響を受けやすいのは仕方なかったが、紗姫はそれが嫌で、幼い内に人化を習得して、逃げるように山を降りた。紗姫が十歳の時の出来事だ。

その後、行く宛も無くさまよっていた紗姫は、ある場所の存在を知る。
東洋魔剣術協会。
そこならきっと、受け入れてくれると、同じ様な境遇の人に会える思ったからだ。

「儂等はいつでも、君たちのような者の味方じゃよ」

長い髭を蓄えた老人がそう言って、案内された場所には、生きる気力に満ち溢れている人が沢山居た。
それから護身のために剣道を始め、書物にあった繰影術を使い始めたのだ。
最初は失敗の連続だった。影の持続時間や耐久力、自身の魔力と体力の限界。
だが、それでも紗姫は諦める事無く繰影術の鍛錬を続け、繰影術を完成させようとした。

まるで、それに取り憑かれたように。

そして、今に至る。


*****

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あきゅろす。
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