〜龍と刀〜 陽の部活 雨の中、登校している生徒はかなり少ない。むしろ、歩いて通う陽たちの方が珍しいみたいだ。 「靴の中ビショビショ……バスで行こうよ?」 女の子の月華には大分辛いだろう。傘をさしてはいるが、雨足がとても強い。地面に当たった雨粒が跳ねて、足に当たる。 「金無いぞ?それに午後から晴れんだろ?」 陽は濡れないようにズボンの裾を捲り、何とか耐えていた。 「いや、良いね〜。朝から女の子と登校かい?龍神は?」 不意に背後から掛けられた声にびくりと体を震わせた月華。当然だ、今の今まで誰も居なかったのだから。 「先輩……何の用です?」 「たまたま見掛けたからさ〜。ついでに面白い情報をね〜」 幸輔だ。つい最近京都から帰り、自らが学校に通っている。理由は、式紙幸輔の方がやられてしまったから。 「お、おはようございます幸輔さん」 「おはよ〜月華ちゃん。龍神、突然だけど今日部活来ないか〜?」 この雨の中で立ち止まる訳にもいかず、歩きながら幸輔と会話する。 「ホントに突然だな。まだ俺の籍あったんだ?」 陽は、実は剣道部員だ。部員ではあるが、幽霊部員。 「まあね。で、どうする?」 「いやいや何で今更……試合とかなら出ませんよ?」 「どうして?陽ちゃん強いのに」 そう。陽は確かに強い。 中学の後半に、知り合いに勧められて始めた剣道。実戦をして来た陽にとっては軽い運動程度。だから、陽なりに手を抜いてやっていたのだが、いつの間にか県大会の出場を決めていた。つまり、地区大会で優勝してしまったのだ。その後、まさかの棄権。陽曰わく、周りが弱すぎるから。 「俺、組織会の時しか行ってないし」 「実はさ〜面白いやつが入ってね?多分だけど、剣道で言えば龍神と同レベルはありそうなんだ〜。それで、あっちが一度手合わせを、だってさ」 「へぇ……」 幸輔自身もかなりの実力者。その幸輔が誉めているのだ。その人はかなり筋がある。 「龍神抜きで考えるんなら、確実に優勝コースだね〜」 「そんな強い人が今更部活に?」 「何でも訳ありらしいよ?」 陽は少しだけ考えて、答えた。 「分かりました……行きますよ」 「オーケーオーケー。あっちには伝えとくから、ちゃんと来いよ〜?」 それだけ言い残すと、走って行ってしまった。走っているのに水が跳ねていないのはさすが忍者と言うべきか。 「剣道か……かなり久しぶりだな」 「時間があったら、見に行っても良いのかな?」 「大丈夫だ。まあ男連中しか居ないから肩身は狭いだろうが……来るんだったらガマンしろよ」 久しぶりに強い相手とやり合えるという嬉しい気持ちと、部活に行くのが面倒な気持ちの半々といったところだった。 [*前へ][次へ#] |