〜龍と刀〜
宝刀と妖刀W
水気を使った戦闘はお手の物だ。まるで自分の手足のように延ばしたり縮めたりする。しかも、今は雨だ。集める水気なら、飽きる程大量に存在する。
「龍族ってのは火気じゃねえのか、坊主?水気を使ってんのは始めて見たぞ!」
「知らないな、そんな事は!」
雹の背中側に水で出来た槍のような物が出現。十六夜に聞いた通りにイメージだけで作ってみた魔術。意外にも上手くいったみたいだ。
水の槍が背中を叩く。強烈な水圧で圧された雹は、前のめりに倒れる。正気を保っていたならば、回避する事は容易いはず。上手くいった、というのは陽の中での話だ。
「暴走ってのは止まらないのか?」
次第に雨が強くなり、戦闘にも支障が現れ始めた。戦闘によって開けられた穴に雨水が溜まり、校庭の砂は水を吸ってぬかるみに。
「原因を破壊か封印する、もしくは本人を倒す事。暴走の基本だ」
「そうか……なら、どっちもだ!」
とっさに雹の胸倉を掴み、力任せに投げ飛ばす。何か、考えがあるらしい。
「ふぅ……『剣凰流』剣技・参式!水龍乱舞(スイリュウランブ)!」
陽が周りに集めた雨は形を変えて、小型の水の龍になった。大きさにして二メートル、数は十。
「一気に片付ける!舞え!」
白銀を横に薙ぐと同時に、小型の水の龍たちが発射される。その小さな口を一杯に広げ、敵を倒さんと風を切りながら直進。
雹は、相変わらず避ける気配が無い。虚ろな瞳に、迫り来る龍を映して。
次の瞬間、水の龍は雹の体を貫いた。手、足、体。神経の無くなった腕は、封牙を取り落とす。
「はぁ、はぁ……どうだ?」
魔力を一気に放出した陽。息を切らしながら、雹がどうなったのか、暗闇の中で目を凝らす。
雹は、立っていた。全身血だらけでも。
「何で……!本気で、やったのに……」
片膝で何とか堪えている陽に向かう。一歩一歩。
「仕事は終わり、だ!」
どこからか発せられた声。気付いた時には、雹は真っ二つに裂かれていた。背後からの一撃、雹の前に突き刺さる鎌、そから伸びる鎖の先に見えた人影。
「封牙の回収、使えないヤツの排除完了っと……」
右手には鎖が握られ、左手には封牙。黒いボロボロのマントを羽織った、死神。暗闇でも冴える赤い瞳、白い髪。そして、陽には聞き慣れた声だった。
「……お前、飛澤か?それをどうするつもりだ?返答によっては敵と見て戦う」
「ご名答!俺は飛澤 壊。んじゃ、一つ一つ質問に答えるぜ?」
鎖を引き上げ、飛んできた鎌を掴む。遠くから見れば、本当に死神その物。
「あ、一つ答えたな。後もう一個、封牙は回収する……本当は龍神と戦いたいんだけどな。信用してもらうためには、従わなきゃならないんだよ」
「ということは……敵、なのか?」
「ああ。『永遠の闇』に仕える飛澤 壊だ!次に会う時まで命は預ける……じゃあな、龍神」
マントを翻し、虚空へ消えた壊。
新たな敵として立ち向かわなければならないのか、という思いが込み上げる。
雨は降り止まない。
陽の横顔は、どこか寂しさを感じさせた。
〜龍と刀〜
第3章「宝刀と妖刀」 終
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