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〜龍と刀〜
宝刀と妖刀U
飛び交う攻撃の頻度は更に上がる。
元々手数が多かった雹は、体術に加え、魔術を多様する事で牽制しながら、体制を整えるという一連の動作。
当然ながら、陽はその程度の事を見切れない訳がない。
剣を振り下ろした後に来る氷のつぶてを柄で叩き、その勢いを殺すことなく斬りへと繋げる。

「ハァ、ハァ……くっ、何故だろうね?明らかに僕が押してるのに、息が上がる……」

何度目か分からない鍔迫り合い。その最中、雹が漏らした言葉。
見たところ、陽の方が傷も出血も多い。
だが、まだ普通に戦っている陽に比べると、肩で息をしている。疲弊の色が濃く表出していた。

「(疲れがかなり見えてんのに、右手の、封牙の一撃が徐々に重くなってる……おかしい。俺の感覚が鈍ったか?)」

再び距離を取るために、お互いに武器を弾く。
先程よりも、雹の一撃が重く感じた。白銀を伝わる衝撃も、大分違う。
跳躍している雹の顔には、前の戦いのように殺しを楽しむ、という物が微塵も感じられない。あるのはただ、全身を襲う謎の疲労感による焦りだ。

「(右手の神経、まったく無いみたいだ……この刀、勝手に動かして?)」

まるで、自分の心が読まれたかのように、封牙が鼻で笑った、そんな気がした。
そんな間にも、陽は追撃を開始している。校庭にあるトラックの車体に飛び乗り、屋根が凹むくらいに強く蹴った。そのまま雹へと接近して、眼前で白銀を持つ手を変える。体を捻り、白銀を腰の辺りに付ける。抜刀の型だ。

「(この距離じゃ、避けるのは無理かな)だけど、ただの抜刀!」

腕を胸の前でクロスして、防御を固める。一瞬、陽の口元が歪んだのが見えてしまった。
来たのは斬撃による鋭い痛みではなく、拳による鈍痛。抜刀の構えはフェイクで、体で拳を隠すための作戦だったのだ。
殴り飛ばされた雹は、見事地面に激突。小さなクレーターが出来上がる。

「君も、戦闘中に笑うんだね?僕と一緒じゃないか」

封牙を杖代わりに立ち上がる。声にもまったく覇気が無い。

「違うな。お前のは自分の欲を満たしたいだけだ……俺のは違う」

両手をだらりと下げながら、弱った雹に近付く。
雹の目の前に立つと、雹はくつくつと笑っている。

「ハハハッ!掛かったね?」

陽の足元に展開される魔法陣。そこから伸びる光の筋。

「大縛鎖(ダイバクサ)と言うらしいね、その魔術は。僕ですら、脱出するのが難しかったからね。覚えて損は無かったよ」

幸輔が雹の対策として仕掛けた魔術を転用したのだ。光の筋が陽の手足を縛り、固定する。

「今回も、僕の勝ちかな?じゃあ、僕のアイス・クロスの能力を見せて上げるよ」

氷の剣をもう一本作り出し、空中で静止させた。
陽は何とか抜け出そうと必死にもがく。

「死を紡げ十字架よ。魂を狩れ−−」

「白銀、術式解放を!」

無言のまま、白銀から魔法陣が展開され、直線になり陽へ打ち込まれる。
詠唱が早いか、陽の解放が早いか。時間との勝負だ。

「こうなりゃ、無理矢理に引き剥がす!」

完全に解放しきれていない体を動かす。ぶちぶちと糸が切れるような音が鳴り、次第に手足の枷が外れていく。

「陽、防げ!」

「−−アイス・クロス!」

至近距離で放たれた青い十字架。だが、陽の目にははっきりと動きが見える。
白銀を放り投げ、龍と化した両手の平で受け止めるが、少しずつ腕が押されていく。

「だああぁ!」

地面に爪を立て、十字架の横の部分を掴み、引き裂いた。

「……魔術じゃなくて良かったぜ」

氷の十字架は無残に真っ二つになり、雹を守る物は何も無くなった。

「封牙よ!今こそ、今こそ終わらせる!」

「悪いな、そういう事だ」

「やってみな、白銀?」

怯える雹見ながら、陽は白銀を思い切り振り下ろした。

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あきゅろす。
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