〜龍と刀〜
再戦
*****
−−夜。
陽は今、校門にもたれ掛かっている。
割れた窓ガラス、ひびだらけの校舎、地面が抉られた校庭、その日から動いていない時計。
それらがあの時の戦いを思い出させる。たとえ皆の記憶が操作をされていようが、消える事の無い事実……敗北。
味わった屈辱を、勝利に変えるために、陽は戦いに来た。
傍らには刀身を晒した白銀を置き、来たるべき相手を待っている。
「やあ、待たせたかな?」
頭上から降る声。
宙に浮かぶは、『永遠の闇』“凍血の殺戮者”、雹だ。
「まさかこんなに早く来るとは思わなかったよ?僕はてっきり怯えて出て来ないのかと−−」
「無駄話はいらない。さっさと始めるぞ」
雹の言葉を遮り、白銀を握る。決して視線を合わせようとはしない。
「そう急かさないでくれるかな。こっちはわざわざ結界まで……いや、いい。さあ今度こそ終幕(フィナーレ)だ!それに相応しい殺し合いをしようじゃないか?」
言いながら両腕を氷にし、その両手に氷の双剣を。
踏ん張る場所の無いはずの空中を片足で強く蹴り、瞬時に陽の懐へと接近。
双剣の一つを逆手に持ち変え、腹部の辺りから切り上げる。
それを白銀の鍔付近で受け止め、上から来る第二撃目を確認する。案の定、頭上より振り上げられていた剣を回避するために、雹の横っ腹を思い切り蹴る。
「っあ……!」
吹き飛ばされた雹は、置き去りにされていたクレーン車へと叩きつけられた。
クレーン車の座席の窓は粉々に砕け、跡形もない。
「フフフッ……やるじゃないか?前とは別人のようだ……たった三日。何があったんだろう、ね!」
走っていた陽の足元に魔法陣が展開される。現れたのは氷の人型。数にして二十体弱。
「氷像・アイシア。遊んでやりなよ!」
ぎこちない動作から放たれる攻撃は、狙いこそ定まっていないが、威力は確かだ。
「一体ずつ相手はしてらんないな。まとめて片付ける!」
大きく飛びすさり距離を取る。左手を突き出し、集中。
集められていく火の粉、魔術を使うつもりらしい。
「攻撃には使えるみたいということだから、取っておけ!」
ある程度の大きさになったところで、発射。赤々と燃える炎の弾は人型に当たると爆発し、連鎖するように壊れていく。
「ふむ。なかなか良いではないか?これは多様出来る魔術だな」
白銀も誉める威力を持つ炎の弾。
三分の二は削れたみたいだ。数も減っている。
「炎か……どっかのバトルマニアを思い出す。極めて不愉快だよ」
燃えている地面を睨み付け、自身の魔術を使って消す。余程、炎というものが嫌いなのだろう。
「ああ、とてつもなく不愉快だ。その炎、使わないでくれる?」
「やなこった。こちとらお前の存在が不愉快だからな……それに比べればマシだろ」
「アッハハハ!奇遇だね?僕も君の事が気に入らない。やはり、潰し合うのが運命みたいだ!」
砕けた人型の破片が宙に浮き、吹雪のように雹の剣に集う。
「斬り裂け、我が力。吹き荒べ、嵐のごとく!」
剣を振るう度に氷の破片が全身を叩く。あまりにも細かすぎて防ぎようがない。
「なあ白銀。火気の術を体に纏ったら熱いかな?」
一旦雹から離れる。
陽は何か思い付いたみたいだ。
「……熱くは無いはずだ。ただ、魔力の消費は激しいだろうな。お前の考えているのは全身に纏う事だろう?」
「そうだ。邪魔だし、さすがに後数回喰らったら完全に皮膚破れるから」
そう言う陽の腕には無数の切り傷があった。全て細かい物だが、陽の言うとおり後数回喰らったら大量に出血するだろう。
「あれを一撃で焼き捨てれば良かろう。あやつの嫌いな、炎の弾でな」
「作戦会議は済んだかい?じゃあ、行くよ!」
時折、氷の破片を飛ばしながら近付いてくる。
「ここだ!」
自分の勘を頼りに炎の弾を連射し、破片を次々と排除していく。しっかりと溶かしながら。
乱射した炎の弾のいくつかは雹へと向かう。
「な、何!?」
避けたつもりだったが、大きな弾の後ろに小さな弾が数個連なっているのに気付けなかった。
「避けきれない!」
響く爆音と立ち上る土煙。炎の弾は、雹に確実に直撃した。
*****
−−学校の敷地外。
一つの人影が、普通の人間に見えるはずのない戦いを見ていた。
「こんな薄っぺらい結界でよくもまあ魔術師と名乗ってんな、あいつは」
壁となっている結界を容易く通過する人影。
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