〜龍と刀〜
早朝の出来事
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日が昇りだした頃、それは起きた。
深夜から十六夜と、半ば喧嘩のような打ち合いを続けていたのだが、外の方で何かが、ガリガリと削れている音が耳に入りどちらともなく手を止める。
「今のは?」
「……お出ましのようだぞ」
道場の屋根を貫き、床に刺さったのは一メートル程で縦長の氷だった。
「やあ、久しぶりだね?」
そこから聞こえて来たのは声だけで、姿は映っていない。だが陽には、誰なのか嫌な程分かっていた。
「ほお、声だけとはなかなか面倒な事をしてくれる」
言葉を放ったのは十六夜。
「誰だい?場所を間違えたつもりは無いんだけど……」
「俺様の事を知らないとは勉強不足だな。この際だ、しっかりとその脳みそに刻んどけ!俺様は鳳 十六夜!ここに居るガキの数万倍強い男だ!」
乱暴に木刀を振り回し、床を思い切り叩く。自己紹介のつもりらしい。
流れる沈黙。
思い出したように声の主は話し出す。
「そ、そうか。覚えておくよ……それで龍神 陽はそこに居るんだね?」
「良く気付いたな貴様。そこそこ出来るみたいだが、俺様ほどじゃあない」
「あんな夜中に爆発音が聞こえれば当然ですよ」
陽抜きで会話が進んでいく、というよりは十六夜が無理矢理、話に首を突っ込んでいるといった感じだ。
「……少し黙っていてくれないかな?あなたに用はない」
「まあそう言うな。しばらく語ろうじゃないか」
陽はこのやり取りをずっと見ているが、それでも十六夜のやりたい事が見えて来ない。
「ハア……あなたに何を言っても無駄なようだね。要件だけ言おう。龍神 陽、いつでも良いから決着を着けようじゃないか?僕は君を倒した場所で待っているから」
溜め息を吐いてから、十六夜に間髪を入れさせず纏めて話す。
「ああ、言い忘れてたけど、日にちが遅れていく度に犠牲者がどんどん増えていくよ。僕の血肉となってもらう人間がね。それじゃ、待ってるよ」
「おい、俺様の話を−−」
逃げるように十六夜の言葉を遮る声の主。
陽は終始黙って聞いている。
ブツリ、という機械的な音が聞こえると同時に声も聞こえなくなった。
残ったのは氷だけ。この暑さで溶ける事も無い。
「会話は全部録音、相手の居場所も調べといた。協会に連絡すりゃ、貴様は戦う必要が無くなる。どうするよ?」
十六夜が会話を引き伸ばしていた理由。声の主の居場所を特定するための時間稼ぎだったのだ。
「協会に連絡しなくても、調べた俺様が今すぐにぶっ殺してやっても良い。どっちにする?」
手に持った木刀で自分の肩を叩きながら陽に聞く。返って来る答えが分かっていても。
「決まってるだろ……俺が行く」
「当然だ!協会に連絡するとか言い出したら消し炭にするつもりだったが。それで、消し炭にした後、今の野郎をぶっ殺しに行くっていう計算までしていたくらいだ」
そう言って、握った拳に炎を纏わせる。脅しというレベルじゃない。
「……犠牲は増やしたくない。今日の夜中にでも行って来い」
「もちろん、そのつもりだ。良いだろ白銀?」
「怪我は良いのか、と聞きたいが。どうせ言っても聞かんのだろ?」
呆れた声で言う白銀。図星だった陽は笑って誤魔化す。
「景気付けにこの氷を叩き割ってやる!感謝しろ!」
「はあ?何で俺があんたに感謝する必要が……」
木刀を直上に振りかざし、これでもかと言わんばかりに力を込めて振り下ろす。
氷は綺麗に割れた。斬られた断面は有り得ないくらいに真っ直ぐだ。
「ふう……暑くなってきたな。これ、かき氷に使えそうだと思わないか?」
「別にやるのは構わないけど。腹壊しても俺のせいじゃないからな?」
「何を言っている?貴様も食うんだぞ。勝てないかもしれねえんだから、せめて今だけでも勝った気分を味わうと良い!」
その後、十六夜は自分で氷を砕いてかき氷を作ってみせた。ほぼ氷の塊でしか無かったが。
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