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〜龍と刀〜
プレゼントを探しにU
陽が先に右足を踏み入れた、その瞬間。
店の奥から一筋の閃光が。それに続き空を切る音。
薄暗い店内の中ではっきりと視認出来たのは鋭利な刃物。
飛来するそれを限界まで引き付け、取っ手の方を掴む。少しでもずれていれば、確実に心臓へと突き刺さっていた。
たった数秒のやり取り。

「若いのになかなかやるの、君」

刃物を投げた張本人、腰の曲がった老人が奥から出て来た。

「刃物は投げるなって習わなかったか?爺さん」

「生憎と、悪ガキだったもんでの。親の言うことなんて聞いた事もない」

「えっと……何があったの?」

けらけらと笑う老人。殺意をまったく感じなかったため、陽も見逃す事にした。
月華は一人状況を飲み込めないでいる。

「ナイフ投げ検定があれば絶対に一級を穫れると思うんじゃが……さて、何か欲しい物でも?」

「いや、別に無いんだ。誕生日のプレゼントを探しにな」

「女の子に売れるような品かい?……こっちでも探してはみるが、期待しないで欲しいの」

それだけ言い終えると、老人は店の奥に戻っていった。

「……なんだったの?」

「一種の戯れみたいなモノさ。何、気にするような事じゃない」

「ふぅん……」

陽がそう言っているので、多分そうなのだろう、と軽く流しておく。

中は見た目通り狭かった。しかも、乱雑に置かれた−−二人にはそういう風にしか見えなかった−−壷や置物、本物なのか定かでない掛け軸、不気味な顔のお面などのせいで、余計に狭い。
横に並んで歩く事も不可能なくらいに。

「しかし、こうも狭いと下手に歩けないな……」

「うん、そうだね……」

月華はなにやら小さい象の人形に見入っている。

「それが欲しいのか?」

陽は一体の人形を手に取り、良く見てみると、顔がやたら不気味。ここは魔除けコーナーらしいが、むしろ色々寄って来そうだ。

「可愛いな〜」

「本気で言ってるのか?(可愛い!?こいつの感覚、大丈夫かよ?)」

「うん!この鼻の曲がり具合とか……」

「どう見ても化け物だろ。止めとけ、色々憑くぞ」

この言葉が決定打となった。何事も無かったかのように人形を元に戻す。
月華は幽霊などが苦手なのだ。

「じ、じゃあそろそろ帰ろっか」

「ふう、良かった。まだ居たの」

月華が逃げようとしたその時。
品物を掻き分けながら、進んでくる老人が見えた。小脇に何かを抱えている。

「良いものを見付けたよ。大分前に仕入れておったが、忘れてての……」

抱えていたのは木箱。箱の表面には炭で文字が書かれているが、所々消えかかっていて読めなかった。

「何だこれ?」

「開けてみてのお楽しみじゃ」

少し考えてからどうするか月華に聞いてみると。

「開けてみよっ!」

開ける気満々である。底知れぬ不安が込み上げてくるのをぐっと堪え、恐る恐る箱をずらす。

「ヒッヒッヒ……こいつは上物でしょう?君なら価値が分かるはず」

中身にあったのは、金色の輪が二つ。周りに綿を敷き詰められており、大事そうに保管されていたのが分かる。

「わあ〜!キレイだね!」

月華は大喜びだ。それもそのはず、ただでさえ暗い店内で、金色の輪は光も当たっていないのに輝いている。
陽はと言うと、難しい顔で金色の輪と老人を見比べていた。

「変な魔力が渦巻いているな……どういう事だ?」

ぶつぶつと呟きながら、金色の輪を観察。

「これ、いくらですか?」

「本来なら、百万はくだらないがの。そっちの若いのには、久しぶりに楽しませて貰った。赤字覚悟で五千円でどうかいの?」

こちらは勝手に金額の交渉を始めている様子。

「上手く利用出来れば、お守りにもなりますがね?どうします?」

「二千だ……協会に頼んでこの店ひいきにしてやるから」

「ほう、そこまでしてもらえるとは。しかし、上の方に顔が利きますかの?」

陽は気付いた。この老人、最初からこれが狙いだったのだ。

「俺は剣凰の頭首だ。何とかなる」

「それはそれは。では、二千で手を打ちましょう……これで良いかの?」

「仕方ない……頂いておく」

財布から千円札を二枚抜き、老人へ。老人は木箱から金色の輪を陽に。

「あ、ちょっと良いかいの?」

「何だ?」

「そいつの名は月光輪(ゲッコウリン)と呼ぶそうだからの。たった今、思い出したよ」

分かった、とそれだけを言って老人と店に別れを告げた。月華もそれに続く。

「なあ、月華。これ、少しの間預かっても良いか?」

「良いけど……どうして?」

「面白い事を思い付いたんでな。誕生日には渡せるから」

金色の輪、月光輪をポケットに仕舞い意地悪そうに笑い掛ける。

「面白い事って?」

「見てからのお楽しみってやつだ」

「え〜、教えてよ〜」

とても気になっている月華。
陽は一体何をしようとしているのか。

空を見れば、夕焼けの赤が夜の黒に変わりそうだった。

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