〜龍と刀〜 過去・陽の記憶 ***** 『俺達……いや、俺のせいだ。本当にすまない……』 父親の頬から流れた一粒の無色透明の液体。それが涙であると気付くのに時間はいらなかった。 そして、普段は人間の姿でいる父親が初めて見せた龍族としての姿であり、最後に見せた弱気な姿。 『ゴメンね、陽……ゴメン……』 いつも笑顔を絶やさずに、陽と父親を支えてくれた母親。 彼女も涙を流し、時間が許す限り、陽を力一杯抱き締めていた。 隠れている茂みの外では、血相を変えた、人間ではない者達が手に武器を携えて辺りを見回している。 彼等は父親と同じ姿をしていた。 龍族、だったのだ。 この時六歳の陽には、何が起きているかなんて分からなかった。だが一つだけ、分かった、分かってしまった。 この生活が、終わってしまうのだと。 その後の記憶は、途切れ途切れにしか残っていない。自分で消したのか、もしくは辛い記憶を封印したのか。 そして、気が付いたら知らないおじさんが横に居て、こう言った。 『そうだ!剣を教えてやろう。お前なら、きっと立派な剣士になれる!』 何を根拠にそんな事を言われたのかは、知らない。 ただ、言われた通りに剣を教わり、自分が龍と人間の混血である事を知った。 両親の安否は、聞いていない。聞いたところでどうにか出来るはずがなかったから。 魔剣術協会へ連れて行かれ、似たような境遇を持った子供達と何人も会ったが、陽は誰とも会話をする事は無かった。 「仲間を持てば、この傷は無くなるのか?……失うのが怖いんだ……誰かを……」 陽はこの一言を残して、また剣術に没頭する毎日を送る。 「……」 一振り。 この記憶を根本から忘れ去るために。 剣術を極め、父親のように強くなるために。 「……」 また一振り。 こうしていれば、いつか両親が帰って来てくれるのでは、あの、家族だけの楽しい時が戻って来るのではないか。 そう、信じて。 淡い希望と僅かな願いを握り締め、幼い心には重すぎる程の荷物を抱えて、陽は剣を振る。 ただ、ひたすらに。 ***** [*前へ][次へ#] |