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〜龍と刀〜
〜幕間・記憶の操作〜
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−−三日前。
陽が戦っている間に、それは学校に到着していた。
白を基調とした和服に身を包んだ数名の男。ただでさえ目立つ出で立ちだが、周りに居る野次馬の人間たちは気付かない。すぐ隣に居ても。

「これより行動を開始する。各人、二人一組で、迅速かつ慎重に事を運ぶよう。異論は」

一人の男が問う。他の男たちは無言だ。それを肯定と判断すると、男は右手を上げ、入れと命令をする。
すると、男たちは音も立てずに何処かへ消え去った。

彼等の名は記憶操作員(キオクソウサイン)。協会が保有する一勢力だ。
役目は、文字通り記憶の操作。操作、と言っても頭を切り開いて脳を弄くる訳ではない。魔術によって記憶を書き換えるのだ。
既にあった事柄を、違う物として相手に認識させる。魔術師が、一般人に魔術の行使を見られたときに多く使う。
この魔術は、高度な技術が必要となってくる。相手に流す魔力の量、相手に与える嘘の情報など。一つでも間違えれば、受けた相手の記憶は消えてしまう。過去に一度、相手の記憶を完全に消し去ってしまったために、魔術師の資格を剥奪され、自身の記憶も消されたという事例がある。たとえ、見られたとしても完全に消し去れば罪となるのだ。
その加減を心得た者だけが集められているのが、この記憶操作員。

「今回の任務、失敗は許されぬぞ。貴殿らの治癒術にも成否が掛かっておる」

「分かっておりますとも。我らとて魔術師の端くれ……精鋭を選定してきた次第。抜かりはありませぬ」

教室内部に入る二人の男。一人は記憶操作員、もう一人は治癒魔術が得意な治癒士(チユシ)。
彼らの役目も、名の通り。怪我を癒やし、治療する。
最高位の治癒士ともなれば、怪我は勿論だが、斬られた手足でさえ治す事も可能らしい。そのリスクとして、手足をくっつける場合、三日三晩もしくはそれ以上の期間、治癒士は魔術を使用し続けなければならないのだ。
それは、精神にも肉体にも大きな打撃となる。

「術式を四方に配置……陣を展開」

教室に横たわる生徒たちを中心に寝かせる。すると、窓・黒板・壁二つに青・白・赤・黒の魔法陣が出現。

「これより、治療を開始する」

四つの魔法陣が輝きを増す。
もう一人の男は、その言葉を聞き終えると自身も言葉を紡ぐ。

「治癒術の陣を流用、術に記憶操作を付加。術式一部を改変」

人差し指と中指を唇に当て、詠唱。今回は直に魔術を使うのではなく、治癒術の中に記憶を書き換える魔術を混ぜる物らしい。

「記憶操作の儀を執り行う」

唇に当てていた指を、切るような動作で横に振る。
治癒術の青い光のドームの中に、雪のような粉が舞い始め、生徒に当たっては吸収されていく。

「襲われたという記憶を、ガス爆発が起きたという物に……」

見る見るうちに治っていく生徒たちの怪我。

「ふう……こちらは終わりましたぞ」

治癒士の男が額に浮かんだ汗を拭いながら、記憶操作に集中している男へ報告。
これだけの人数への魔術を使用するとなると、かなりの体力・精神力を削る事となる。だから、魔術師の人数もそれなりに必要なのだ。

「あと、少しだ……完了。これにて儀を終了する……休憩を取っている暇は無い。行くぞ」

早々と教室を去る男二人。

「つかぬ事をお聞きしますが、ガス爆発というのは……?」

「……長の命令だ」

隣の教室に入り、同じように魔術の使用を開始する。

他の教室でも、手順は多少違うが淡々と作業に没頭していた。
戦闘を行っている一人の魔力が上がるのを感じながら。


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あきゅろす。
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