〜龍と刀〜 朝 ***** −−翌朝の龍神家。 今日も快晴である。 「さて、そろそろ帰るか」 昨晩、陽の家で泊まった面々は琉奈に朝食まで作ってもらい、とても満足な様子。ちなみに、学校は修理のため、二週間休校なのだ。だから、このようにのんびりしている。 「あれ?龍神は?」 井上が、この場に陽が居ない事に気付く。これに返答したのは琉奈だった。 「んー、あれは当分起きないわね。起こしたら大変な事になるかも」 「……よし。井上、起こして来い」 「無理無理!絶対無理!」 壊が無茶な提案をする。当然井上は全力で断固拒否。 「それでは私はこれで」 「あ、うん。またね!」 春空が控えめに手を振りながら門を後にする姿を見送る鳳親子。十六夜は居ないが。 「僕らもそろそろ帰るよ。あんまり龍神に迷惑掛けらんないし……ほら井上も飛澤も」 ふざける時は目一杯ふざけるが、ちゃんと良識を持っているのが中島。普通にしていれば、良い人なのだ。ただ、井上と居るためか、ちょっとおかしくなっている事が多い。 何やらまだ言い合っている二人を、半ば引っ張るように連れて行く中島。 その声が聞こえなくなったところで琉奈が息を吐く。 「ふぅ……それじゃ、私も帰らなきゃね。十六夜さん、お昼無いと飢え死にするから」 昼食を抜くだけで飢え死にするような人物ではないと思うが、一カ月位食べなくても生きていけそうな気がしないでもない。むしろ、サバイバルな生活が似合いそうだ。 琉奈が帰ったところで、タイミングを見計らったように陽が玄関から顔をだす。 「なんだ、みんな帰ったのか?せっかく見送りしようと思ったんだが」 そんな気を毛頭感じさせない声。 寝癖を気にしているのか、頭を押さえている。よほど酷いのだろうか。 「おはよ。あ、この後暇?」 「……暇じゃない。俺は今から二度寝しようと思う。しかも、お前の言いたい事は分かっている。買い物に付き合って、だろ?」 正解!と拍手する月華。 陽は行く気がさらさら無い。今すぐに布団に入って睡眠を取るつもりだ。なんせ、昨日は寝ていないのだから。月華の父親のせいで。 そんな事は露知らず、月華は陽を連れて行こうと言葉を続ける。 「分かってるなら話は早いよ。実はね、私−−」 「俺は眠いし、具合が悪いそして何より体中あちこち痛い。早起きは体に悪いみたいだ……だから無理」 月華の言葉を遮る。これ以上喋らせれば絶対に連行されるに決まっているのだから。 しかし、月華も負けじと反撃。 「早起きが体に悪いって言うのはお父さんと陽ちゃんだけだよ!」 確かにそうだと思う。世間一般では体に良いと言われている。陽は全く信じていないが。 本人によると、早く起きると何やら急激な敗北感と虚脱感に包まれる、との事。 「あ、もしかして陽ちゃんは来週何の日か覚えていないのかな?」 その言葉で、空気がずっしりと重くなったように感じられた。 当然、陽の頭はカレンダーを検索し始める。 「(来週……?七月だよな。七月のイベント、夏休み・七夕・思い出したくないがテスト。その他、何も無いよな?)」 休みが始めに出るのは、よほど学校が嫌いな証拠……そうでなくても夏休みが先に出るかもしれない。 「その三つ以外だよ」 今の月華は読心術が使えるのか、陽の顔に表れているのか、的確に当ててきた。下手な考えを起こすような事は決して許されない。例えば、逃げようとか。 「私にとっては一番大事なの」 「(月華にとっての大事な日?……いや、待てよ。普通一般の人間の思考と俺のは何か違うんだ、自分で言っててアレだが。と、なると逆に俺にとってどうでも良い日)」 毎日、という考えが浮かんだがすぐに消える事となる。答えが分かったのだ。 「ああ……誕生日か?」 今までの怒りのオーラが嘘のように消滅し、いつもの月華に戻る。 対する陽は、溜め息だ。 「そう!七月六日、私の誕生日!」 「お前は子供か?たかが誕生日……」 陽は自身の正確な誕生日を覚えていない。だから達彦に拾われた日が誕生日、という事になっている。 「六日学校だから、どこにも行けないでしょ?それでね、今から行こうって話をしようと思ったの!」 「……それはつまりアレか。俺がお前に何か買ってやれって事か?」 コクコクと頷く。最初からそのつもりだったらしい。 「分かった……準備するから待ってろよ」 「やったー!」 子供のようにはしゃぐ月華。 やる気がまったく無い陽。 こうして、二人は−−主に月華の誕生日プレゼントを買うため−−出掛ける事となった。 [*前へ][次へ#] |