〜龍と刀〜 知りたい事 ***** 「ん?鍵、掛かってんな……」 陽は家の鍵を掛けないで飛び出したため、閉まっている訳は無いのだが、閉まっていた。 誰も居ないのは分かっているが、戸を揺らしてみたりチャイムを連打してみたり。 「確かどっかの窓を開けておいたはず」 玄関を諦め、裏へ回る。途中にある窓を全てチェックしながらなのだが、他人から見ると、白昼堂々空き巣をしようとしている少年に見えなくもない。この家の住人だと知らなかったら、通報されていたかもしれないのだ。 そして一周。 「あれ……おっかしいな?絶対に俺は閉めてない。そもそもこの家に鍵なんて合ったっけか?」 鍵が無いのは色々と問題だが、陽は特に気にしていない様子だった。 このまま突っ立っていても事態が進展するはずがないし、かといって携帯電話も無いので連絡を取る事も出来ない、行く充ても無い。 「困ったな……それどこじゃないのに」 「あら、どうしたのかしら?」 不意に声を掛けられたので、少しだけびくりと肩を震わせた。だが、声を掛けた本人を見て更に驚く事になる。 「うぉ!?ルナさん、何でウチに?」 ルナさんと呼ばれた女性の手には、買い物をして来た事を示すレジ袋。 「陽君が入院してる間、私達がここで寝泊まりしてたの」 「仮にも人の家ですよ?」 「だって、鍵掛かってなかったんですもの。もしかして……年上の女性は嫌いかしら……?」 今にも泣き出しそうな顔のルナさん。 鍵を掛けなかったのは確かに陽が悪い。 「……その発言、色々と危ない気がしますが」 陽はこの人が苦手だった。 それは、ルナさんが月華の母親であるという理由があるからだ。 鳳 琉奈(ホウ ルナ)。見た目が若い為、二十代と見間違われる事が多々あるが、月華の年齢から考えると……。もし琉奈が二十代だとしたら、月華はどうやって生まれたのかという事になってしまう。 「そうだ!月華に電話しなきゃね。さっき病院に行っちゃったから」 おもむろにポケットから鍵を取り出す琉奈は、何やら楽しそうだった。 「はあ……白銀に話聞いて来よ」 「あ、そうそう陽君。イザヨイさんが来なさいって言ってたわ」 「えぇー、めちゃくちゃタイミング良いじゃねえか。俺、あの人苦手なんだよ」 「もう、本人の奥さんの前でそんな事言わないの。白銀さんも連れて行ってね」 タイミングが良すぎる。まるで退院するのが分かっていたかのように。 因みに、琉奈も魔術関係者である。 「しゃあないな……んじゃ白銀と少し話してからで」 「はい。伝えておくわね」 そう言って、自室へと向かう。 全てを知るために。 ***** 「白銀ー、居るか?」 戸をゆっくりと開く。恐る恐るといった感じだ。 「当然だ。遅かったではないか」 「悪い……俺の言いたい事、分かるだろ?」 「知りたい、か」 ああ、と一言だけ呟いて白銀の前に座る。表情は真剣そのもの。 琉奈の前では明るく振る舞っていたが、心の中では悔しさや怒りが渦巻いていた。 「何から話せば良い?」 「そうだな……ルナさんの話から察すると、みんなは大丈夫なんだな?」 「うむ。事後処理は協会が済ませた……学校の修理までは手を付けていないらしいが」 陽は腑に落ちないといった感じで溜め息を吐く。 協会が介入したということは、生徒等は何らかの魔術を受けた事となる。結果的には助かったのだが、同時に自分の無力さを露呈しているようで嫌だったのだ。 「雹は……どうなった」 「あの後早々に退却した。自分の勝利を確信したのだろうな」 グッと両拳を握り締める。雹の勝利、つまり陽の敗北を意味する言葉。 「他には何か無いか」 白銀はとにかく話題を変えたかった。こうでもしなければ、今すぐにでも雹を探し出して倒す、といきり立っていただろうから。 「……じゃあ、俺を病院まで運んだのは誰なんだ?」 陽も白銀の気持ちを汲み取り、適当な質問をする。 「それは、アイツ−−」 白銀が急に沈黙したので何事かと思えば、ドタドタと慌ただしく階段を駆け上がる足音が聞こえてきた。 何なのかは大体分かっていた。 だから、何て言えば良いのか考える。 「……いつも通りで良いよな」 考えるのは性に合わないと出掛ける支度を、白銀を術式の埋め込まれた布で巻く。白銀は鞘が無いため、竹刀袋などで包むと落としてしまうからだ。 戸が勢い良く開く。 その瞬間、陽はこう言った。 「どうした、そんなに息切らして?」 努めて明るめな口調で、戸の前に立ち尽くしている月華に声を掛ける。 「うぅ……良かった……陽ちゃん、生きて……」 力なくその場にへたり込む月華。目には大量の涙を溜め込んでいた。 「まったく。心配し過ぎだぞ?たかが三日間だけ目を覚まさなかっただけで」 泣き止む様子が無いので、仕方なさそうに月華の前にしゃがみ込む。 そして、頭を優しく叩いてやる。 「俺を誰だと思ってる?龍神 陽だぞ?この程度で死ぬとでも?」 実質死にかけていたのだが、そこら辺は格好を付けておくために隠す。 実は三途の川が見えました、何て言ったら月華は更に泣くだろう。 「だからさ、泣くなよ。な?」 「あら、女の子を泣かすなんて……陽君も悪い子ね」 一部始終を見ていたらしい琉奈が割って入る。とても楽しそうに見えたのは陽の気のせいとしておこう。 「泣き止むまでちょっと時間掛かりそうね……イザヨイさんの所、行っててくれるかしら?帰って来る頃には多分大丈夫だから」 「分かりました。お願いします」 琉奈には軽く頭を下げ、月華には手を降ってから階段を降りる。 向かうのは、イザヨイという人物がいる『金鳳流』道場だ。 [*前へ][次へ#] |