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〜龍と刀〜
無数の黒羽X
基本的に蛇は視力や聴力が比較的弱い生き物である。しかしその代わりに皮膚からの感触や味覚、嗅覚といった感覚が優れているのだ。更には蛇のみが持つ特徴として軍用機器並みに高度なセンサーのような器官を持っている。地中で生きる事を選択した蛇ならではの能力だろう。
そして陽が受け継いだのはこの内の一つであるセンサーの能力。勿論ただの生物としての蛇の能力ではなく、神族としての蛇の力。“視る力”、或いは“感じる力”だ。仕組みの詳細は理解出来ていないようだが、使い方は簡単だった。“視よう”、“感じよう”という意識を持って魔力を眼に集中させる。それだけだ。
だからこそ、既に見えている。相手の仕組みが。
相変わらず上空から突進を仕掛ける蝙蝠の大群。仲間がやられた事に怒っているのかもしれない。

「本当なら魔物退治って事で倒しても良いんだろうけど、捕らえさせてもらうぜ」

「ほざけ!捕まるのはお前の方だ!」

「なら、試してやるよ。本当にお前が一頭だけで俺を倒せるのか」

不気味に鳴り響く風切り音。しかし陽にはただの音でしかないようだった。肺一杯に冷たい空気を吸い込み、白銀を上段で構えて待ち受ける。
距離が縮まる。とてつもなく騒がしい羽音だ。

「終わりだ――!」

左足を滑らせ、弾丸から体を逸らすように斜めに割り込む。一直線に陽の居た場所に目掛けて飛んできたそれを一閃。銀色の剣光が黒を引き裂く。まるで紙を切るように容易く、今まで少しでも苦戦していたのが嘘のようだ。

「なっ……何故、だ……!」

地に落ち、赤黒い液体を流しながら口を開く蝙蝠。やはり一頭だけ。

「悪いな。拘束魔術なんてのは使えないから……痛むぞ」

必死に飛び立とうと蠢く大きな蝙蝠の翼を無慈悲にも白銀の刀身で貫いたのだ。本人が言うように、拘束魔術は使えないが故の処置。倒すだけなら簡単だが、生きたまま捕獲するというのは難しい。

「どうして、わかった……?」

消え入りそうな蝙蝠の声。自分たちの戦いの仕組みが見破られてしまった理由を問うているのだろう。

「この“眼”の力さ。お陰で視えた。お前らが常に幻覚を使ってるのがな」

自身の目の横を叩きながら言う。
魔力の流れを視覚的に顕わす“眼”だ。これを使用する事で蝙蝠の大群という幻覚から本体だけを見抜き、切り捨てる事が可能となった。

「まあ……とりあえず、俺の勝ちだ。逃げんなよ」

「喋らなければ良いだけの話、だ……」

「人間は、手強いぜ?」

柄に手を掛けたまま膝を突く。顔には玉のような汗。呼吸は乱れ、視界は揺らいでいる。“眼”の反動だろうか。

「っとダメだ、ちょっと休むわ……白銀、こいつの事頼んだ」

弱音を吐かない陽が珍しく弱気になっている。相当辛い症状なのだろうか。

「ああ。眠るのは勧めないが」

「おう助かる……」


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