〜龍と刀〜 無数の黒羽V 「どうする兄よ」 「奇襲かもしれん!警戒を怠るな!」 陽が落ちた辺りで羽音を響かせて旋回を開始する蝙蝠。どうやら水の中に飛び込む事は出来ないようだ。羽が濡れるからなのか、それとも水中での行動が出来ないからなのかは定かではないが。 対する陽はというと飛び込んだまでは良いのだが、目は開けられないし息も出来ないし更には身を凍らせるような冷たさに思考までも止められてしまいそうだ。 (失敗だったかな……これは、まずい……!) まだ上下の感覚はある。幸いと言うべきか滝の水圧を感じる事が出来ているからだ。水底に引き摺り込まれるような感覚。白銀との意思疎通は出来ず、徐々に体も痛みを訴えてくるではないか。 「無茶なやり方だな。しかしなるほど、龍の血が見えるだけであってほとんどは人なのだな」 念話であれば頭の中に直接語りかけるような響きがあるのだが、今回は違った。耳元で囁くように、しっかりと声が聞こえてくる。水の中だというのに。一体誰が。 「ああ、もう喋れるはずだ。水の影響を受けぬように力場を作ったのだ」 言われた通り、息を吐いてみると水の抵抗感は一切無かった。次に吸ってみる。まるで地上に居るように普通に呼吸が出来た。 「どうだ、生き返ったようであろう?」 「……あ、あんた逃げたんじゃ」 目も正常だ。水底に降り立った陽。周囲には球体状の薄い壁。魔術的な結界だろうか。そして目の前に現れたのは白い蛇、なのだが。 「それに小さくね……?」 掌サイズ、とはこの事を言うのだろう。先程は巨大だったあの白い蛇の神族。今や見る影も無く小さかった。威厳など何処へやら、人によっては可愛らしささえ感じてしまうのかもしれない。 「逃走しようにも行く当てがな。そんな事はどうでも良い。せっかくだ、力を貸してやろうと思ってな」 「どういう風の吹き回しだよ?」 「……龍族についての話も聞かせてやる。まずは奴らを片付ける」 水中でやり取りが行われている頃、滝壺周辺を旋回する蝙蝠たち。勿論落ちた所だけを狙っている訳ではなくその周囲を警戒。どこから出て来ても良いようにという事なのだろうが、やはりどの一匹も水中に向けて攻撃したり特攻を仕掛けようとはしない。 「……長いな」 「まさか流された……?」 「そんな事はないはずだ!見ろ!流れはそれ程急ではない。恐らく奴は龍族だから水気を存分に蓄えているのかもしれない!」 「成る程……それではここから離れるべきでは?」 「いいや!出てきた所を叩く!」 どうやら兄と呼ばれる蝙蝠は猪突猛進タイプなのか仲間の意見を取り入れようとはしない。これが吉と出るか凶と出るか。 [*前へ][次へ#] |