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〜龍と刀〜
無数の黒羽U
どうやらこの蝙蝠は相当単純な性格をしているようだ。簡単な挑発に引っ掛かり怒りに震えながらの突進。

「っ……!」

陽にしてみればこの程度微々たるダメージではあったが、一でも集まれば十にもなるし百にもなる。今の状況がそれだ。一体だけならば瞬時に仕留められるのだろうが複数体が意志を持って絶え間なく攻撃を続けている。全身の至る箇所を切り裂かれ、例え強固な龍の鱗を纏っていたとしても囲まれては防戦一方だ。

「前が、見えねえ……!頭も霞む……!」

「陽、大丈夫か!」

「ダメージはほとんど無いけど、邪魔!」

魔術に覚えがあるのなら広域に攻撃を行う事で打開出来たのかもしれないが、鍛錬を積んだ今でも補助程度の魔術しか陽には使えない。使おうと思えば出来ない事はないのだが、消耗は激しく加減も効かない。ましてや精度の高さなど期待出来るはずもなく。
逃れるようにゆっくりと後退。下がってどうにか出来るものなのか――

(音……滝だ。使えるか?)

耳に届く轟音。不気味な羽音すらも掻き消そうとする大音量だ。後方には滝がある。あの白蛇を隠せてしまう程だ、かなりの深さを持っているはず。水圧に飲み込まれてしまえばそれこそ本末転倒だが、この場を仕切り直すには使えるかもしれない。

「どうしたどうした!余裕がないんじゃないかぁ!」

「っせーよ……!耳元で、騒ぐな……!」

「そろそろ終わらせてくれよう!弟たち!」

勝利を確信したのか、蝙蝠の群れがばらける。開かれた視界、吹き付ける冬の風と水飛沫。背中側には滝壺が見える。この一瞬を上手く使えなければ、また囲まれてしまうだろう。

「これでも、喰らえよ!」

白銀を逆手に持ち替え、切っ先で地面を擦りながら振り上げた。舞う砂埃。感覚を重視する獣にこれは意味の無い行為なのかもしれないが、少なくとも目に粒の一片でも入るのなら十分だ。

「小細工を……!」

「陣は乱れてない!いける!」

「特攻する――!」

三方向から迫る黒い砲弾。多少は衰えたのかもしれないが周囲の風すら巻き込んで飛び掛かる勢いは凄まじい。魔術的な攻撃か、はたまた物理的な突進なのか。

「だけど今は……こうする!」

体を反らす。後方へと傾き、普通であれば恐怖を感じる体勢だが、今は戦闘中。倒れるようであるが、歴とした作戦である。近付く水面。叩き付けられる体。肌を切り裂くような冷たさが全身に沁み込む。目は開けられないが、沈んでいる感覚がある。落ちる滝の水圧に巻き込まれながら、じわじわと水底へ向かっているのだろう。

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