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〜龍と刀〜
無数の黒羽T
「このっ……!」

周囲を飛び交う蝙蝠の大群に苛立ちを募らせながら腕を振るう雪那。その手には鈍色の扇。鉄扇と呼ばれる代物だ。主に護身用、軍の指揮をする為に使用されていた故か扇を開いて武器として扱うには不向きだと思われるが魔力を練り込んでの鍛造、更に使用者からの強化魔術などで実戦に耐え得るだけの強度を手に入れた。鋭さで言うなら刀剣にも負けてはいなだろう。
鉄扇を両手に、舞うようにとは言えないが的確に且つ無駄の無い動きで数羽を纏めて地に落とす。しかしどれだけ落とそうとも一向に減る気配は見えず、むしろ先程よりも倍に増えているような感覚すらあるのだ。

「ああもうっ……うっとうしいなぁ!」

蝙蝠の羽はまるで刃のようで当たる度に皮膚を切り裂き、更には不気味な羽音で感覚を狂わせ次第に酔ってしまったかのような気分になる。体術を専門としている流派に所属している雪那にとっては分の悪い相手と言っても良いだろう。

「雪那さん!――退けよ、お前ら!」

白銀を大きく振り抜き道を切り開く。その先には最早黒い塊にしか見えない雪那が居ると思しき場所。走りながら何度か白銀を振るう。紙を破っているかのような軽い感触であるが、低級の魔物ならばこの程度だろうか、と陽は気にも留めない。
ここまで密着するような状態で囲まれていると白銀での攻撃では危険を伴う。それは勿論魔術での攻撃も同様。ならば、どうするのか。

「無理矢理――助け出す!」

白銀を左手に持ち替え、瞬時に右腕を指先から肘まで龍化。気味の悪い程群がっている塊に龍化された腕を突き刺す。およその感覚で中に居る雪那の手を掴み、引っ張る。握る力はほとんど使わず、体重だけで引く事で雪那へのダメージを少なく出来ると考えたのだ。陽が後ろに倒れそうになると同時に雪那の体も黒い塊から脱出。その姿はなかなかに痛ましいものだ。ジャージは至る所が切り裂かれ、白い肌には複数の赤い傷。陽には効いていないが魔術による意識の混濁もあるようだ。

「大丈夫ですか!?」

「う、うん……ごめん、ちょっとキツイわ……」

「立ってただけ凄いですよ……あとは任せてください。しっかり守りますから」

ひとっ飛びで大きく距離を取り、川岸の木陰に雪那を座らせ立ち上がる。仲間を傷付けた相手だ、許してはおけない。

「おい!さっきの喋れる蝙蝠!」

上空、漆黒の球体を見上げながら陽は声を張り上げる。

「ここからは俺だけを狙え!それとも何だ?てめえらの小さい頭じゃそんな細かい事は出来ねえってか?」

「馬鹿にするなよ!貴様を捕らえれば全て!」

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あきゅろす。
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