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〜龍と刀〜
成長と寂寥とW
剣を通じて響く衝撃は確かな手応え。そう、確かに握った剣は相手の体へと届いていた。しかし、手応えがあったというだけであって、それが敵への痛手だったかどうかはわからない。何せ、振り下ろしたはずである影の剣が中空で留まっているのだから。
直撃からか立ち上る黒煙の中、穿つように伸びてきたそれは――腕だ。見るだけでも強靭だと分かるその腕と鋭く光る爪。

「やばっ……」

しかし流石の瞬発力で剣を解除。自由になった身体を動かし、未だ立っているであるはずのパルドの股下を潜り抜ける。忘れずに背中への攻撃を仕掛けてみたものの、今度は鎧に阻まれてしまう。

「なるほど……確かに脅威と成り得る技量はあるのかもしれないが――」

呟くようにしたのだろうが、この狭い空間では独り言も十分耳に届く。そしてそれと同時に、息を大きく吸っているのも。

「耳、塞いで!」

紗姫はその技を知っていた。だからこそ、その動作が目に付いた瞬間に判断する事が出来たのだ。自身では一切使った事も使おうと思った事もない、純粋な力技。数多存在している種族の中でも、特にこの技を行う事に長けているのが獣族。
垣間見えたパルドの上半身が大きく膨らんでいる。
それを視認した月詠も危険がある事を察知。耳を塞ぐという動作よりも防御魔術を発動させる方が速いと判断し、術式を起動させる。
ほんの僅かな間。一瞬の静寂の後だ。

「――ゴアアアアアァァア!!」

大気を振るわせる爆音。既に割れていた窓は粉々に、転がっていた木片やコンクリート片などは容易く砕く。更には大きな重圧さえ感じる咆哮。取り巻いていた黒煙すらも打ち払う。

「良く気付けたな」

「そりゃああんなに大きい動作されたらね……」

「その魔術もなかなかの強度だ。まさかこの咆哮を耐えるとは」

「この程度、当然であろう?」

このパルドという豹男。相当戦いに自信があるようで、しかも二人を見下していたようだ。だからこそ、自分の繰り出した攻撃を防がれた事、そして少なからず足止めしている事に驚いているらしい。

「どうやらかなり見誤っていた、否情報が古過ぎたという事なのか」

先程斬撃を受けたであろうはずの肩口には一切の傷はなく、光弾の直撃したはずの鎧も多少の汚れがあるだけだ。獣族の持つ強固な身体だけでなく、鎧を通している魔力もかなりの量。

「人語使ってる時点で結構な奴なのよね」

「完全に人化を物にしている先達に言われるとは感慨深い」

「もう少し練習すればいけるんじゃないかしら?」

「だとしても、成すにはこの道しかないのだよ」

ピクリ、と頭部に付いている耳が揺れ動く。

「……潮時か」

「逃げるのか?いや、逃がさん――」

「もう少し遊んでいたいところだったがこちらは目的を達している」

月詠の手から一筋に伸びた光がパルドを捕らえようと迫るが、それは空を裂き壁へと刺さる。

「幻術……!」

揺らぐ姿。もうそこには実体はないのだろう。しかし、声だけは周囲から響いてくる。手当たり次第に攻撃すれば当たらない事はないのかもしれないが、そのような事を出来る場所ではない。

「これでも魔術を使えるのだよ。何れまた相見えよう」

その言葉を最後に掻き消える気配。逃げられた。残された二人、そして破壊された空間。確かに二人だけでも相手をする事は出来たが、それでもまだ――

「届いてない……」

足りないのだ。肩を並べるまでには、まだ。


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あきゅろす。
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