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〜龍と刀〜
成長と寂寥とV
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限られた空間での戦闘では如何に相手の数を減らして動ける範囲を広げられるかが重要だ。結界内では特に限定された行動を常に思考して戦わなければ、味方への被害も出てしまう。
しかし二人も実戦経験を重ねてきたし、鍛錬も積んでいる。見事な連携で複数体の敵を打ち倒し、残すは指揮官と思しき獣顔の者だけだ。

「まさか我等がここまで遅れを取るとは思ってもみなかった」

装着している甲冑にも複数の傷が見え、丸太のように太い手足にも裂傷。ただそのどれもが致命傷とは程遠いようで、一切消耗していないようでもある。

「むしろ見誤っていたようだな。見解を変えなければならないかもしれない」

「何だ?最初からワタシたちなど眼中に無かった、と?」

月詠が苛立ちを含んだ疑問を投げ掛けると、獣の顔をぐにゃりと歪めて不敵に笑う。

「その通りだ」

言うと同時、腕部と脚部に装着していた漆黒の鎧が弾け飛ぶ。現れるのは見た目通りの筋肉を纏った四肢。黒い斑点が複数あるそれは、謂わば豹柄と呼ばれるものだろう。そもそも甲冑が必要なのだろうかと思える程ではあるのだが。

「だが、ここからは考えを改めていこう。それとも、目標を差し出すというのならそれはそれで構わないのが?」

まるでストレッチをするように手首を回したりする姿は人のそれに近いような気もする。それとも話をしている余裕がある、という強さのアピールなのか。
何れにせよ甘く見られているのは確か。ならば、その余裕を崩すべきだ。

「せっかくだ。名乗っておこう。我が名はパルド。見ての通り豹である」

「随分と安直な名前ね」

「名前など然程重要でもあるまいよ。それにこの国には名は体を表すという言葉があるだろう?そういう事だ。お前もどうだ?狐らしい名前にしてやろうか?」

「分かり易くて良いと思うけど……お断り!」

影で作られた大剣で斬りかかる紗姫。背後からは援護するように光の弾が飛び交う。移動する紗姫の体のすれすれを通り抜けてはいるが、そのどれもが決して当たる事はなく、パルドと名乗った豹男に向かって的確に進んでいく。

「その程度の弾速で……?」

パルドにとって二人の攻撃など取るに足らない速度であった。引き付けてから回避、反撃に転じても十分に余裕がある。そう思考していたはずだった。何かが体の表面を這うような感触、それに気付いた時には遅かった。

「いつの間に……」

自身の足元から伸びているのは、自身の影だ。それが蔦のように巻きつき、両足を完全に封じている。なかなかの強度故に破壊には間に合わないだろう。目の前には大振りの剣と、光の弾が襲い掛かってきているのだ。ならば――
繰影術には気付かれたようだが、パルドはそれを解こうとはしない。全て受けきるつもりなのだろうが、自分たちも強くなっているはずだと信じ大きい動作で剣を振り下ろす。

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あきゅろす。
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