〜龍と刀〜
不安要素U
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この大型商業施設、展開されている店舗は飲食店や独自のイベント施設だけではなく通常のスーパーとしての機能もあるようで、遊びに来ている人だけではなく日用品の買い物をしに来ている人も多いようだ。
陽はただその中を引っ張り回されるように付いて歩いただけだが、それでもその広さと人の多さには驚かされるばかり。つい先日も近くに出来た似たような施設に出掛けてはいたが、ここはそれよりも大きく広い。何より湾が近いせいか解放感もある。
「疲れた……」
そう呟いて陽は柵に体を預ける。すっかり夕暮れから宵闇へと変わろうとしている時刻だ。ちらちらと夜景が出来上がりつつあり、心なしか気温も下がっているように感じられる。一人、潮風の吹く海辺に荷物多めに佇む。雪那は飲み物を買いに行く、とこの場を離れている。だからこそ、一人になって思うのはこれからの任務の事だ。
もし自分と同じ――あくまでも同じ血が流れているという事ではあるが――種族の、龍族の生き残りだとするのなら、何故滅びてしまったのか、他に仲間は居るのか、聞いてみたい事が山のようにある。特に、自分の父親の事など。
「はぁ……」
吐く息は白く、風に流されて消えてしまう。考えても答えが出ない事など重々承知の上ではあるのだがそうせざるを得ない。もし、その相手が“敵”だと判断されてしまった場合。自分は戦う事が出来るのか。数多存在している種族の中でも頂点に君臨するであろう、龍に。只でさえ完全ではない自分で戦えるのか。マイナスの思考は止まらない。珍しくどんどん泥沼に嵌っている自分に気付く事もなく、陽はただ真っ暗になってしまった海面をぼんやりと見詰める。
「どうかしたん?」
完全に気を抜いていたのか雪那の接近に気付けなかった陽。少々肩を震わせたような気もしたが、それを悟られないようにと首を振る。
「はい、コーヒーでよかったかな?」
「どうもです。いただきます」
投げられた缶コーヒーを受け取り、開けて口に含む。口内に広がる苦味と酸味。多少の甘味は――
「無糖だこれ……」
――来なかったようだ。別に無糖が飲めないという訳ではないのだが今は体が甘い物を欲していたらしい。
「考え事でもしてたん?」
「え?あぁ……ちょっとだけですけどね」
「夜の事?心配せんでもいけるやろ?陽君は十分強いって話は聞いてるし、昨日見させて貰ったし」
「自分の実力が通用するのって結局は自分と同じくらいか、それより低いかで……もし同じでも素の実力が違えばどっかで負ける事もある訳だしって考えたら止まらなくて」
剣の腕なら誰にも負けないくらい鍛錬を積んでいる故に自信はある。だがそれでも勝てない相手が居るのが事実。越えられない壁がある。
「そんな根詰めんでもええんやない?」
「そう、ですかね……」
「そうそう!なんて言ったって今回はな?」
気分の落ちている陽を励ますように肩を叩きながら。
「このうちが付いてるんやから!」
そう言って明るく笑い掛ける雪那。その明るさはまるで後ろで煌いている夜景のようで。
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