〜龍と刀〜
成長と寂寥とU
不思議と結界を跨ぐ時にある独特の浮遊感がなく、少しだけ反発があるだけだった。新たな技法なのかもしれないが、今は目の前の敵をどうにかしなくてはならない。
「チッ……予想外に早い展開だが……良いか、この場のどこかに居るはずだ!探せ!」
軍団の中央に立っているのは薄い赤色の甲冑を身に纏った者だ。露出している部分は肉食獣のそれと同様。獰猛な牙をぎらつかせ、両腕にはしなやかでありながら強靭さを窺える筋肉の鎧と太陽光を反射する鋭い鉤爪。周囲に侍らせているのも見た目は同じようだが、甲冑を装備している箇所が少ないしバラバラだ。命令を下した者がほぼ全身を覆っているのに対し、軍団は胸や脚だけと階級の違いでもあるのだろうか。立ち姿も軍団には猫背が目立つ。直立しているのはやはり、中心に居る者。
「……目的以外と女子供には興味がないんだ。逃げるなら追わずにいてやるが」
式紙が運び去る被害者たちと、月華たちに向けての言葉だろう。
「逃げる必要はないわ。負けないから」
「あくまでも立ち向かおうと言うのか……?」
「ええ、豹男に負けるつもりはないの。それに私そういう中途半端な獣化と人化嫌いだし」
「ちょっと紗姫ちゃん、怒らせちゃ……」
腕の血管がここぞとばかりに膨らみ、更に筋肉を隆起させる。その様子を見てなのか、軍団が一斉に道を開けていく。
「どうやらこのエドガー、舐められているようだ。……お前らは仕事を果たせ。この空間ならいくら切り裂いても噛み潰しても構わない。標的さえ見つけられればそれで良い」
「オオォォ――!」
雄叫びを上げて四方八方に散らばっていく軍団。結界を破るつもりなのだろう。さすがに獣の姿をしているからか脚が速い。既に結界の縁と思しき箇所まで到達。
二重になっているとは言え結界の強度は従来の物であると予想。校庭と校舎の境目の辺りに群がる軍団。この距離では二人が走って追い駆けるのは難しいだろう。
「そのような事をワタシがさせるとでも?」
月華の雰囲気が変わる。金色の腕輪を輝かせ、空に翳す。橙に近い色の波動が大きく広がりドーム状に。結界の内側に更に一枚の壁を作成。
「そうか、そこまでして歯向かうか」
「では歯向かわない理由を聞こう」
「弱者は強者に勝てない。それが自然の掟だ」
「確かにその通り。だがそれは強者が使って良い言葉だぞ」
普段の月華であればこのような発言はないだろうが、今は月詠と入れ替っている状態だ。曲がりなりにも元神族。負ける気など微塵もないのだろう。
「良いだろう。ならば――」
ふっとエドガーの姿が掻き消える。
身構える二人。
その背後。
「――身を以って味わえ」
声と同時、背中に強烈な痛み。吹き飛ばされ、地面を転がる。
「手強そうね……」
「依り代に負担が掛かってしまいそうだが……やむを得ないな」
苦痛に顔を歪ませながら紗姫は拾った枝に影を纏わせ幅広の大剣を創り出し、月詠は両手に光の弾を。
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