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〜龍と刀〜
幸輔の仕上げ
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幸輔は五日前に仕掛けておいた術式の仕上げに入っていた。
学校ではもっぱら鍵壊しの話題で盛り上がっている。
自分ともう一人がやった訳だが、見付かる心配はまったくしていない。

「あ〜だるいな〜。本元早く帰ってこないかな?いい加減学校もめんどいし?サボればあの人キレるんだよな〜」

この幸輔は式紙である。
本元、御門 幸輔本人は只今京都にて情報集めの真っ最中。
一応は高校二年生だから就職やら進学やらを気にしているため、休みがあると非常に危なくなってしまう。
そこで式紙幸輔の出番という訳だ。しかし本元と性格もほぼ一緒になってしまった式紙幸輔は、面倒事を他人に押し付ける癖がある。
本人の才能が祟ったのだろう。

「あと何個だったっけ?出来れば今日は動いてほしく無いんだよね〜でも、もう一週間経ったからな〜そろそろ動きそうだし……龍神の停学もあと少しだし。急ぎましょ」

仕上げというのは、魔力で強化したり欠陥が無いか調べたりする事である。
元々が式紙だからなのか、幸輔には手で触れたりするなどの直接的な接触が必要無い。
ちょっと近くを通るだけである程度チェックが可能になっていた。ただ、学校中を歩き回らなければならないので、朝早くから登校。
未だに終わらず、はや一時間目を告げるチャイムが鳴っている。

「戻んなきゃ。十分に一個のペースだな〜。動いても良いけど、屋上か体育館裏じゃないと……まず、この体で太刀打ち出来るのかな?」

ブツブツと愚痴を言いながらゆったりとした足取りで教室に戻り始める。

「ちょっとぐらい遅れたって良いよね?ボクは別に来たくて学校来てるわけじゃないし……電話?もしもし〜」

誰もいない廊下に幸輔の間延びした声が響く。

『やあ〜。久しぶりだね、ボク』

「うわっ本元ですか〜?」

電話をかけてきたのは本物の幸輔。
まったく同じ喋り方。ここまで精巧に術式を組めるのはなかなか珍しい。
百人に一人居るかどうか、その位のレベル。

「何用です?そちらから電話なんて?」

『もしかして君分からない?あらら〜喋ってなかったけ?身代わりの式紙は術者の意識と同調してるんだよ〜。意味、分かる?ドゥーユーアンダースタンド?』

若干怒り気味らしい。英語で質問をして来た。
走る式紙幸輔。急がなくては、今後の出番が無くなってしまうし、情報集めにも支障が出る。つまり、廃棄処分な訳だ。

『ま、今回は許すけどさ〜。龍神いたら龍神にやらせれば良かった訳だし?ボクの説明不足ってのもある。だから、今回はお咎め無し〜。そんじゃ、授業頑張ってね〜』

ほっと息を吐くが、これも本人に聞こえているのだろう。
渋々と、教師に遅れた理由を説明し、自分の席に着く。

「(さすがは本元。そこら辺も抜かりないな〜)」

陽とは違い、しっかりと黒板に書かれた文字をノートに書き留めていく。
性格に似ているのか、文字も丸みを帯びていた。

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あきゅろす。
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