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〜龍と刀〜
現れた者T
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――陽が目を覚ましたのは協会本部に到着してからだ。まだ真夜中ではあるが、眠りが浅かったせいで起こされても機嫌が悪くなっていない。目を擦りながら環境を確認する。目の前には長い階段。石畳で舗装された道の向こうには紅白の柱と壁を持つ屋敷。東洋魔剣術協会総本部。昼間でもさぞ大きな存在感を放っているであろうこの屋敷、夜間である事もあってか今は荘厳な雰囲気を纏っている。

「僕は車置いてくるから。この階段を上がって真っ直ぐ行けば本殿。きっとそこで良いと思うよ」

「分かりました。ありがとうございます」

「うん。頑張ってね」

陽が荷物を後部座席から降ろしたのを確認すると、青年はバックで車を移動、方向転換して走り去っていく。
座り疲れた体を伸ばし、幅が狭い階段を一歩ずつ上る。

「凄いな。これが総本部か……」

「土地自体が強大な魔力を秘めているのだ」

「はぁー……確かに結界も相当な強度だよなこれ」

背負った白銀からの解説を受け、辺りを見渡す。勿論常人には特に何も感じないだろうが、魔術の素養のある人間ならその力の膨大さに気付くだろう。周囲に満たされた濃密な魔力、そしてこの協会全体を覆うように形成された結界。

「でもこれすらも破れる力っていうのもあるんだよな……」

「先日は破られたそうだが。何かしらの対応策は講じているはずだ」

「してないならそれこそ慢心じゃねえの?」

先日の襲撃の際にはこの強固な守りも破られてしまい、多大な被害を出したそうだ。今はその影も欠片も感じられないが、相手にもそれ程強力な術師が居るという事。
階段を上り切り、門を潜る。結界へと侵入する時に感じるちょっとした不快感の先には白い玉砂利を敷き詰めた参道。広大に広がる多くの屋敷。ほぼ全ての魔術師、剣士を統率管理する場所。
敷き詰められた玉砂利には清めの意味が込められていると言う。その為清めの色である白が多く、踏みしめる音も魂を清めるとか。そして、音による防犯効果も。
一瞬だけだが、足音が聞こえた陽は白銀に手を掛けて振り向く。魔力が高まっているこの場なら相手を察知するのも容易になるだろう。

「……気のせいか」

確実に何かが居る。敵であるのなら今頃協会の中からも何かしらの動きがあるはずだ。だが、今はそれがない。単なる気のせいなのか。感覚が鋭敏になり過ぎて小さな動物にでも反応してしまったのかもしれない。
最後にもう一度周囲に視線を巡らせたがやはり異変はなかった。足を本殿に向けた時。

「……!」

再び背後から殺気。月明かりで姿を隠すように跳躍している者の姿を見る事が出来た。巨大な得物を手にしている。
陽は荷物を投げ捨て、竹刀袋の紐を解く。現れる刀身。相手の速度が分からないが、この距離なら防御までの動作は間に合うはずだ。
そして衝突。予想以上の重さに陽の顔が苦痛に歪む。完全に衝撃を殺し切る事が出来なかった。白銀から伝わった衝撃が全身の骨を揺らす。純粋な重さによる一撃だ。

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