〜龍と刀〜
車中では……
流れ往く町並みを窓越しに眺めながら陽は暇を持て余していた。次第に山の中へと向かっているようで、煌びやかな明かりもなくなり今は走る車のライトと等間隔に設置された標識のささやかなものだけだ。
「あとどれくらい掛かるんですか?」
ただ座っているのも眠気を誘うだけなのでとりあえず放し掛けてみる事にした。新幹線でも寝ていたが、寝心地が悪かったのか熟睡は出来なかったようだ。
「そうだねぇ……ここからだとあと一時間は掛かるかな」
「一時間……真夜中か……」
現在の時刻は既に日付も変わって一時過ぎ。ここから更に時間が掛かるとなると、やはり睡眠を摂るべきなのではないだろうか。しかし運転して貰っている側の人間なのでそれも何だか気分が良くない。どうにか起きている状態だ。
「そう言えば君は学生だって聞いてるけど、学校は良いの?」
「さあ……協会の方でどうにかするんじゃないですか?」
「その口振りだと、あんまり学校が好きじゃないタイプだね?」
「あー……まあ。監獄みたいで好きじゃないです」
笑顔でそう言われてしまうと事実を言うしかない陽。高校に入学してからはほとんど出席をしていたが――例の停学処分は別として――、それでも学校という存在は今でも嫌いなのだ。特に時間で縛られている感覚が嫌いだった。学べ、と言った謙蔵の意思も今は分からないでもないのだが。
「そうだよね。僕も学校は嫌いだったけど、今じゃ学生が羨ましいよ」
「大学生くらいに見えますが」
「はは。見えなくはないだろうねこの恰好じゃ……年相応だと思ってるけど」
男の服装はまさに今時の若者、といったような感じで失礼ではあるがあまり和装が似合いそうではない。
「僕の両親は元々協会と繋がっている神社の神主でね。高校で色々あって中退して、それからずっとこの仕事。もう少し遊びたかったなって思うよ」
「……遊んでばっかりでもないですよ?」
「それは分かるけど、何と言うか……働いてる人間の嫉妬みたいなのがあってね?何でこっちは休みとか精神削ってるのに、こいつらはあんな気楽にって」
社会人の持つ特有の妬みなのだろうか。子供は子供らしく遊んでいれば良いという考えもあれば、このように自分と比べてしまう部分もある。
陽はまだそのように感じた事は無いが、いずれそう思うのかもしれない。しかし、将来など考えた事もなかった。ただ漠然と学校に行って卒業して、その後。どうするつもりだったのだろう。
(……どうにでもなるさ)
あくまでも客観的で、楽観的で。今は考えないようにしよう。逃げの姿勢ではあるが。それに今はまだ、やらなくてはならない事があるのだから。
「ただの嫉妬だから気にしないで」
「え?ああ、気にしてないですよ」
それから二人の間の会話は途絶えた。途絶えたとは言うが、陽が遂に睡魔に負けて眠ってしまったからだ。青年は何度か話し掛けていたようだが。
そして、陽が次に目を覚ましたのは目的地に到着してからだ。
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