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〜龍と刀〜
唐突な依頼U
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授業中は相変わらず。右から左へ授業を受け流し、陽は京都行きについて考えていた。思えば過去に一度だけ達彦に付き添って立ち寄った事があるが、ほとんど記憶にない。そもそもこの時期に呼び出すと言う事は余程の事なのか、何故他の頭首ではなく自分なのかと考え出したらキリがなかった。
その考え事状態は帰宅途中でも続く。ほぼ何も見ずに歩き続け、気付けば屋敷前。取り付けられた郵便受けの前で立ち止まると、陽はひとりごちる。

「まさか、ホントに来てるのかな……」

恐る恐ると言った様子で中を覗く。宅配ピザの広告や何やらに挟まって一枚の茶封筒。宛先はしっかりとここ『剣凰流』、陽宛てである。裏に住所はない。あくまでも住所を漏らさないようにしているようだ。

「あれだけデカいのに今更って感じだけどな」

言いながら屋敷の中へ。切符に書かれている時間は夜の二十三時。現在の時刻は十八時前後だろうか。

「……時間ねえ!」

特にこれと言った荷物は思い当たらないが、この街から新幹線の出る駅まで行くのに約一時間は掛かると見ておいた方が良いだろう。他にも月華や紗姫には悟られないように出立しなければ。そうなると工作が必要になってくる。
急いで自室へ戻り、着替えを済ませようと服を引っ張り出しながら何着かを別の鞄に。

「どうした、慌しいな」

「慌しくもなるって……あと数時間したら京都行かないといけないんだよ」

「……協会か?」

「そうなんだよ!何か凄く急いでたけど……」

バタバタと忙しなく走り回る陽を見兼ねた白銀が声を上げるが、それでも陽の手は止まらない。話しながら何か別の事をするというのはお手の物。雑に詰め込んだせいで膨れ上がった鞄を叩きながら白銀に応える。

「何時に出るんだ?」

「っと……そうだな……色々考えると九時には出ないとマズいかもしれない」

「残り三時間か」

「急かすなよ……」

長いようで短い時間だ。咄嗟に計算してみたが、やはり九時頃には出ておきたい。道に迷う事や何らかの要因で遅れてしまった場合を考慮してだ。その場合はきっと協会側から何かしらの通達があるだろうが、今は予想している時間通りに動くのが良いだろう。服を必要だと思う分だけ詰め込んだ陽は続いて机に向かった。

「書置きでもしておかないと電話メールの嵐だろうからな」

「先手を打とうということか。意味はないと思うが」

「それは言わないでくれよ……なんとなくそんな気はしてるんだけどさ」

何かしら残しておかなければならないだろう。幸いにも今日はこの屋敷に戻ってくるのが遅くなるであろう紗姫や、明日いつものように起こしに来る月華に向けての対策だ。しておかないのとではほんの少しだけ、微塵程度に違いがある、と信じておきたい。


*****


――時は来た。最低限の所持金と、少ない荷物。そしてチケットがある事を確認し、白銀を厳重に布で巻いて更に竹刀袋に入れて絶対に落ちないように背負う。まるで夜逃げするようだが、別に逃げている訳ではない。ただ、誰にも悟られないようにというのがネックである。この街から離れるまでは油断禁物。
息が白くなる冷えた空気の中、陽は若干俯き気味で歩いていく。これから一体どのような事が待ち受けているのか、少しだけ不安があったからだ。

「はぁ……」

吐き出した息がゆっくりと消えていく。今夜も冷えるだろう。溜め息を何度かしながら、陽は暗い街並みへと姿を溶け込ませていった。


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