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〜龍と刀〜
唐突な依頼T
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龍神 陽。彼は先日、名前だけではあるが『剣凰流』頭首としての席に着いた。あくまでも名前だけで公表もされず、知っている人間は元頭首である謙蔵と、愛刀である白銀のみ。剣の腕を認められた証。剣士の名誉の最たるもの。
そんな陽は今、本来は立ち入り禁止である屋上でただ一人寒空に晒されていた。当然自分の意思なのだが。
肌を刺すような冷たい風。フェンス越しに見えるのは自分の住んでいる街並みだ。たまに沸いてくる心の弱い部分。本当にこの手で守るなどと言い切れるのか。頭首には抜擢されたが、まだまだ未熟な腕前。それこそこの街に居を構える二人の頭首には足元にも及んでいないだろう。

「はぁ……そろそろ戻るか……」

まだ午後の授業が残っているのだ。憂鬱ではあるのだが、サボるとまた呼び出しを喰らってしまう。最近では英語の時間だけはあまり寝ないようにしている陽。本人曰く善処はしているとの事。
体を大きく伸ばし、新鮮な空気を吸い込むと気分がすっきりする。冬の良いところなのかもしれない。すると、ポケットの中に入れている携帯電話が振動する。

「誰だろ……」

取り出されたのは傷の目立つ少し古めの物。激しい戦闘の中で良く無事に使えていると感心している愛用携帯。元から振動や衝撃に強い物を選んで購入したのは内緒である。
着信表示されている相手先は、非通知。本来であれば無視しておくところだろうが、陽は違う。大体このように非通知で掛けてくるのは協会絡みの人間だと分かっているからだ。

「はいもしもし」

[龍神様の携帯電話で合っていますか?]

「ええ、そうですが。どちら様でしょう」

[申し遅れました、私協会本部のオカモトと申します。以後お見知りおきを]

電話の向こうから聞こえてきたのは少し低めの女性の声だった。協会からの電話は普段なら同じ人物から掛かってくるのだが、今回は知らない相手だ。オカモトというらしい。

「よろしくお願いします。それで、どういう用件ですか?」

[はい、誠に急で申し訳ないのですが……]

オカモトは何やら言いにくそうにしているのだが、陽としては早めに言って貰えるとありがたい。授業の開始を告げる鐘がすぐそこに迫っているのだ。

[至急、本部まで来ていただけませんか?]

「……は?」

彼女の口から告げられたのはとんでもなく突飛なお願いだった。特に陽にとっては。学生であるという点と代理であるという事から協会本部の在る京都への訪問は強いられていない。それが何故か今回はその法則から外れているのだ。

「いや、でも……明日も学校が……」

[それは重々承知なのですが事が急でして……既に乗車券などは手配させて頂いたので夕方には届いているかと]

「おいおい……随分急過ぎるな……それ行かないとダメですか?」

[詳しい内容は聞いていませんが、長の言う事なので……]

長い溜め息。協会のトップからのご指名では断るに断れないのだ。特に陽が代理という立場を維持出来ていたり、白銀の所持を許可されていたりと優遇を受けているのは彼のお陰でもある。

「ちょっと考えてみます……」

[いえ、来てくださいとの事なので]

「え?そんなに急なの?」

「はい。あと、誰にも悟られぬように、だそうです。それでは私も別の仕事が残っておりますので」

「ちょっと……!切れてる……」

最後は早口で捲くし立てられてしまった。画面に表示されている時間は授業まで残り二分。歩きながら考えよう。

「京都ねえ……」

少しだけではあるが、楽しみでもあった。


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