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〜龍と刀〜
誰が相手でもW
迫るのは風だけじゃない。それを理解しているから下手に動く事が出来ないのだ。銃弾すら受け止める事の出来るこの体なら、可能なのか。

(さあ、どう出る?)

駆け、距離を詰めながら謙蔵は考える。陽が一体どのような手でこの脅威を乗り越えるのか。そして、不可視の攻撃を往なしていくのか。楽しみなのだろう。不思議と心が躍る。戦闘で得られるものは勝利だけではない。それを幾度と無く経験してきた。
既に風の刃は陽の眼前に迫っている。その奥に謙蔵の姿も少しだけ見て取れた。迷っている暇はない。強烈に吹き荒れる風の中、右腕に全神経を集中させる。チリチリとした感覚が背中を刺す。熱くなる右腕。普段であれば拳を握って殴り付けていただろう。だが、それでは駄目だと直感が叫ぶ。

「ふっ――」

鋭く息を吐き、止める。指先までピンと伸ばし、まるで一本の剣がそこにあるようなイメージを作り出す。それを背中側に目一杯引き、最大限に研ぎ澄まされたところで、放つ。
所謂貫手と呼ばれる技だ。拳よりも細かい点で集中的に放つ事が出来る。だが、指先の鍛錬も必要になってくるこの技。陽はその鍛錬をしていない。しかし武術として知っている。そしてそれを補う為の龍としての体。鱗で魔術を受け止める事が出来るのなら、爪で切り裂く事も可能なはず。そして今ならその風を断つだけでなく、その先に居る謙蔵にも届く――!
紙を裂くよりも容易く、陽の腕が飛び出す。それは予測出来なかったのか、謙蔵は足を止め、飛び出た腕を対処するために白銀の刃で滑らせる。火花を散らしながら顔の横を通り抜ける陽の腕。灰色の鱗と鈍色の爪が謙蔵の皮膚を切る。

「ぬ……!」

情け容赦の無い一撃。当たっていれば顔に穴が増えていたかもしれない。殺意こそ感じられないが、陽も本気でやっているのだ。

「殺す気か?」

「そこまでしないと、あんたの目的を聞き出せないし、白銀が戻らない。どうせ死なないだろ?だけど何よりも俺がムカついてるのが、さっきも言った事だ」

単純な腕力ではやはり衰えがあるのか謙蔵が不利なようだ。そして、間近で押し合いをして分かる事があった。

「どうしてあの子を巻き込む必要があった!ただの一般人だぞ!どこまで落ちぶれてるんだよあんた!」

陽の怒り。かなりの威圧感だ。気持ちの昂ぶりに合わせて魔力も溢れ、周囲を熱する。この寒い季節でも陽と謙蔵の周りだけは景色が揺らいでいた。

「……」

「それでも……それでも元頭首かよ!師匠の父親かよ!」

「だったら――」

謙蔵の蹴りが陽の鳩尾に決まる。深く入る前に後退し、距離を取る。

「――だったらどうする?ここで負けろ、と?」

陽の言う通り、『剣凰流』の元頭首で達彦の父親である。だが、その前に一人の剣士。自分から仕掛けたとしても負けるつもりはない。その相手が例え誰であっても。

「分かっているだろう?」

「力尽くで止めろってか?」

「その通り」

「なら、望み通りそうしてやる……!」

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あきゅろす。
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