〜龍と刀〜
デート……!?Z
パンケーキを軽く平らげた二人は席を立つ。会計用の伝票を手に取った陽の顔が驚きの表情を作る。勿論これは値段を見ての反応だ。
「マジかよ……あれだけで三千円もするのか……!」
二枚のパンケーキと飲み物代を含めて約三千円。金銭的には余裕があるが、ただそれでも出費は痛い。陽の場合はどこで大きく金が消えてしまうか分からないのだ。特にここ最近は襲撃による損壊の修理、保全。そして魔術発動用の式紙などの費用。一端の高校生など鼻で笑えるレベルでの取引を行っているのだ。
だが、それでも公に大金を所持しているなどと自慢したりは決してしない。あくまでも普通の高校生のように。一般人のように。もっと言うなれば、表社会の人間のように。極稀に使わざるを得ない時もあるが。
伝票を持ってレジへ。受付の女性店員は笑顔でそれを受け取り、金額を口頭で伝える。
「お会計、三千円になります」
財布を取り出そうとしている葵を見る事なく素早い動作で支払いを完了させる陽。年上として、ここは払うべきだと判断したのだ。普段は井上などに払わせたり割り勘したりと節約気味だが、ここは別だ。
「はい……三千円、ちょうどお預かりしました。ありがとうございます!またお越しください!」
その動作に追い付けなかった葵。慌てて陽の後を追う。
「あ、あの、お金……」
「ん?ああ別に良いよ。このぐらいだったら全然奢るから」
「わー!ありがとうございます!」
「だけど兄貴には言うなよ?あいつすぐ集ってくるからな……」
店を出るとやはりまだ寒い。日は高く昇っているのだが、気温が上がっていないようだ。風も少し吹いているため体感温度が低くなっているのかもしれない。しかしそれでも葵は寒いとは感じていないようだった。食事をしている際にも感じたらしいが、先程のように気遣いがさり気無い。それが葵の心を擽るみたいだ。しかも、その気遣いが自分に向けての物だと分かっているから尚更嬉しい。
「もちろん言いません!秘密ですね!……二人だけの……!」
「さて、それじゃあ次はどこに行く?正直に言うと俺はここら辺知らないからなぁ」
「スルーですか、そうですか……」
「え、何でテンション下がってるの?」
もしかしたら興奮状態にある自分が悪いのかもしれない、と思った程だ。確かにはしゃぎ過ぎた部分もあるが、少しくらいは拾ってくれても良かったのにと思ってしまう。
そんな葵の気持ちなど陽は知る由もない。目に見える範囲での気遣いは出来るのだが、心の奥底までは読む事が出来ない。それこそ心を読む魔術というものは存在する。『御門流』なんかが得意としていると耳にした事があるが、そこまでして人付き合いで魔術を使う必要性はないだろう。しかも、その魔術には相応の時間が掛かると聞いている。
「大丈夫です。うん、大丈夫なんです!これからです!」
「おっと……あんまりはしゃぐと転ぶよ」
ジャンプし、ふらついた葵の腕を咄嗟に掴む。すると葵は笑顔でこう言ったのだ。
「えへへ……危なくなったら陽さんが助けてくれるんで大丈夫ですよー」
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