〜龍と刀〜 デート……!?T それから二人はリビングへ向かう。陽は朝食に与れればと思っての行動。井上は相変わらず眠たそうに目を擦っている。あれだけの衝撃を全身で受けたはずなのに覚醒には程遠いらしい。 「おはよう和真。龍神くんも」 出迎えてくれたのは母の結衣だ。やはり彼女はエプロン姿が良く似合っている。 いつ以来か、陽もこの時間帯に頭が冴えているのだ。だからだらしない顔を見せなくて済んだ、と内心ホッとしている。 「おはようございます」 「おぅあーおー」 「日本語で喋ってくれよ……」 言葉にならない謎深い音を発しながら席に着く。普段の自分を見ているようで居たたまれない陽。顔を逸らして昨晩と同じ対面の席へ。すると、鼻腔に広がるのは朝らしいパンの香ばしい香り。 「もう、また寝るの遅かったの?」 少し呆れ気味で言う結衣が持ってきたのはこんがり焼けたトーストが四枚。井上と陽の分だ。普段ほぼ米食――月華に作って貰っている訳だが――陽には何だか新鮮ならしい。 「んー遅くないよ?いつもよりは」 その一枚に手を伸ばし、魂の抜けたような瞳で齧り付く。一体普段はどの程度起きているのだろうか。 「この子、休みの日は大体昼まで寝てるのよ……困ったわ」 そんな陽の心を読み取ったかのように頬に手を当てながらコーヒーを飲んでいる。きっと今のは陽に何か言って貰おうという事なのだろうが、陽も似たようなものなので言うに言えない。それに今の井上は未覚醒状態。何を言っても分からないはずなのだ。自分がこの状態ならきっとそうである、と経験者は語る。 「まったくこの子は……それより龍神くん、今日はどうするの?一応今日の夜に旦那が戻ってくる予定だから、泊まるなら言っておくけど……」 飲み終えたコーヒーカップを洗いながら結衣が問う。恐らく頼めば快諾してくれるのだろうが、迷惑を掛ける訳にもいかない。だが、そうなると場合によっては宿探しをしなくてはならないのだ。 「何があったかは聞かないけど、うちで良ければいつでも歓迎するから。ね、和真?」 柔らかく微笑み掛ける。そんな優しさが心に響く。 「んーっ……なにか言った?ごめん聞いてなかった」 ようやく覚醒が始まったらしい。伸びをしてカーテンから漏れる太陽光を全身に受ける。エネルギーを充填しているかのような動作だ。 「ありがとうございます。とりあえず考えさせてください。どうなるか……俺にもまだ分からないんで」 そうは言っているが、胸中ではきっとこう思っているはず。必ず取り戻してやる、と。だが今は、頼る雰囲気を出しておこう。たった一晩ではあるが、とても良くして貰った。それに、家族の温かさというのももう少しだけ味わってみたい。 「とりあえず今日はこの後葵ちゃんに誘われているので――」 「あら……通りであの子早起き……二人でデート?良いわねえ」 「なっ!?龍神、おま……!」 飲んでいたコーヒーを少し噴き出した井上。どうやら驚きを隠せないらしい。色々言われていたとしても妹なのだから。 「違う。誘われたんだよ」 「俺も行く!」 「ダメよ。私が行くんだから」 「母さんはダメだって!」 相変わらずこの親子はとても楽しそうだ、と他人事な対応でコーヒーを啜る陽。こちらも相変わらず、人の気持ちが理解出来ていない鈍感な少年だ。 [*前へ][次へ#] |