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〜龍と刀〜
悪戯心は抑えられない
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――現在、時計は朝八時を示している。日差しが眩しい。
結局徹夜で行われるはずだったゲームは、陽が気分転換をしていた時に井上が寝ていたようなので無かった事に。
そして何故陽がこんなにも早起きしているのかと言えば、硬い床で寝る事を強要された挙げ句、鞄を枕にしていたらほとんど眠れなかったからだ。

「首いてえ……」

全身の骨が悲鳴をあげているのが分かる。しかもこれが戦闘や鍛錬などと言った体の酷使でないのだから恰好が付かない。立ち上がって伸びをしながら、珍しく朝なのに冴えている頭を働かせる。これからやる事。

「どうすっか……顔とか洗ってきて良いのかな?」

眠気よりも気だるさが上回っているのでとにかくすっきりしたいようだ。
ベッドには一人だけ気持ち良さそうに寝ている人物。それが目に入った途端、陽の心は大きく動く。周りには投げ付けたら面白そうな物が沢山ある。これはもう起こすしかないだろう。

「だけど……もっと、もっと面白い起こし方があるはずなんだ……衝撃的で、リアクションが大きくなりそうなやつが……!」

悪知恵というのはどうしてこうも輝くのだろうか。現に今の陽はとても楽しそうである。
普段もこのように頭脳を使う事が出来たのなら、勉強でも何でも素晴らしい結果が残せるはずだ。だが、そこは人間。都合の良いように出来ているので、やりたくないと思ってしまった事を今更変えるなど相当の努力が必要。ならばこのままで良いのではないか。甘えだと言われようとも。
陽が目に付けたのは携帯電話と時計。簡単で、しかも相当のダメージを負わせる事が出来るアイテムが二つもあるではないか。勝手に他人の携帯を開けるのは気が進まないが、それでも面白そうだという理由だけで実行。さすがにロックが掛けられているが、音量は上げる事が出来たみたいだ。それを静かに、熟睡している井上の耳元へ。デジタルの目覚まし時計を一分後にセット。これで準備は完了。あとは自身への被害を最小限に抑えるために部屋から脱出。
カウントは心の中で。

(あと少し……)

――今だ。自身の携帯で電話を掛ける。するとどうだろうか、部屋の中では着信音と目覚ましのハーモニーが奏でられているのだ。井上にとってそれは、ただの爆音かもしれないが。

「うわあああ!何!?何なのー!」

部屋の中ではベッドから転げ落ちたのかドタドタと暴れる音。まずは電話を切る。しかしそれでも騒音は終わらない。陽はうっすらとドアを開けて覗いてみた。まさかこうも慌ててくれるとは思わず、とても充実した顔である。
対する井上は何が起きているのか未だに理解出来ないのか、それとも単純にまだ起きていないのか布団を頭から被って怯えている。
その様子を見て段々と可哀想に思えてきたのか、陽は部屋に入り、仕掛けたアラームを止めると井上の布団を剥ぐ。

「お前……やっぱり面白いな」

「た、た、つがみ……何が起きていたんだ……?」

「多分知らない方が良いと思うぜ」

「そう、か……相当怖かったぜ……悪夢だったよ……途中までは良かったんだ……」

どうやら夢の延長線上に居ると錯覚したらしい。陽は笑いを堪えるのが精一杯。朝から最高のリアクションをありがとう、と聞こえないように呟いてから続ける。

「なあ、飯ってお願いしたら出してくれるかな?」

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