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〜龍と刀〜
ぬくもりV
ドアの向こうには柔らかい光に包まれたリビング。入って右手にクリーム色のソファとテレビが鎮座し、左側にテーブルやキッチンという構図。やはり広いし、暖房も良く効いている。本当にここに来た事があるのか疑問が湧いてきた。先程の件があったせいか、これすらも謙蔵の仕組んだ事なのではないだろうかと不安に思えて来る。だとしたらかなり用意周到な計画だ。
しかし、陽の不安を消し去るように優しい言葉が掛けられる。

「こんばんは龍神くん。元気だった?」

「こんばんは。お久しぶりです……すみません、いきなり泊めて欲しいだなんて頼んでしまって」

「良いの良いの!昨日から旦那も出張で居ないし、たまには和真の学校での事聞きたいし」

「ありがとうございます。でもまともに話せるような内容では無いので……」

「そんな事ないよ!?俺だってたまには真面目な事もあるんだよ!?って母さん聞いてる?」

エプロン姿でキッチンから出て来たこの女性は二人の母親である井上結衣(ユイ)。テーブルに皿を並べているという事は、これから食事なのだろうとすぐに判断出来る。

「聞いてるよー。和真は身長も成績も伸びないって」

「そんなとこから聞いてたのかよ!だけど成績の話はしていないぞ!」

「でもお兄ちゃん。それ事実だから仕方ないよね?」

「身長は伸びるかもしれないだろ!成績は……成績はぁ!その、未来は分からないから……どうにでもなると思うのですよ。だから今は飯を食べるんですね。母さんの料理は相変わらず美味そうだなー……」

端から見ても良く分かる逃避である。しかしこの母と妹、弄って楽しんでいるようにしか見えない。本当に仲の良い家族だな、と陽は部外者目線で思う。こういう温かさは心に沁みる。だがこれが普通の家族というものではないかとも考えてしまう。少しばかり騒がしいが。

「ありがとう和真。でもね、成績伸びないと次はお父さんに怒られるよ?」

「え、マジで……?」

さすがに父親は怖いらしい。顔の血の気が引いていくのがここからでも分かる。

「部屋に勉強道具だけにしてやるって言ってたもん。その時はベッドの下とか机の裏とかカバー変えてるやつとか全部片付けないとね」

「それは困る……じゃねえ!ちょっと待ってよ母さん!そういうのは葵居るからやめろって!ってかまた勝手に入ってるし!」

「入ってないよ?ただ前から変わってないのがあるのね?あ、どうぞ龍神くんも座って」

棒立ちとなっていた陽に気付き空席へと誘導。どうやらその位置は普段父親が座っている場所のようで、目の前には兄妹、右隣に母という構図になっている。食卓を囲む、とはこの事だろう。

「なんなんだよ……!この家、母親と妹が苛めてくるんだが……助けてくれよ龍神ー!」

「それはお前の日頃の行いだろ……」

目の前には野菜炒めや鶏の唐揚げ、白米に味噌汁その他にも調味料が置かれており、とても充実しているように見える。

「隣に若い男の子が居ると、ちょっと緊張するね」

「何故ですか……」

「こういう旦那さんだったら良いなって思ったり!」

食べながら、結衣はその様な事を大々的に発言する。血の繋がりは馬鹿に出来ないのだろうか。

「ダメだよお母さん!陽さんは年上には興味ないんだよ!年下が好きなんだよ!」

「どこからの情報だよそれ……」

「お兄ちゃんが言ってましたー!」

「んん!?やめろよ葵!俺がいつそんな事を言った!……あ、龍神ごめん!あはは妹が変な事を言ってるなーまったくこいつはー」

箸が止まる。しかし、食事は大切にしたい陽。ここは冷静になるために、温かい白米と一緒に飲み込んでおこう。

「お前、あとで覚えとけよ?」

「嫌だ!」

「あら……年上も良いと思うのに……」

「上目遣いで友達を誘惑するな!大人しく飯を食え!」

陽は思う。こんなに賑やかな食事をした事があっただろうか、と。妙な情報を植え付けられているのは心配だが、それでもここは楽しい場所だ。この体験を出来た事だけは謙蔵に感謝しよう。


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