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〜龍と刀〜
修行
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雹との一騒動から二日。
陽は家の道場に居た。
小さい頃から使ってきた愛着のある竹刀。
達彦の失踪後、修行をする時は白銀に見てもらうのが通例になっていた。

「振りが遅い!得物の動きを計算しろ!」

白銀は修行時、鬼のように怒涛の檄を飛ばす。
戦闘とは命の駆け引き。一瞬の判断の遅れが命取りになってしまう。だから、自分や周りの状況、相手の強さ等を的確かつ冷静に見極めなければならない。

剣術の修行は約三時間程。
基本的な型から始まり、応用、最後は自分独自の型と順にこなしていく。
自分独自の型というのは、基本や応用の技に得意な体術や魔術を組み込む事。
今までの門下生には、柔道やボクシングといった格闘技を組み合わせたのを使う人も居たが、やはりどちらも素手の競技。剣術と併せるのは無理があったらしい。
魔術を使う者は、馬鹿みたいに詠唱の長い術を組み込もうとした結果、詠唱中にかんでしまい、諦めたという逸話もある。

陽はといえば、剣術一筋でやってきたため、魔術を組み込もうとすれば暴発し、体術を組み込もうとすれば剣が振れないと愚痴を言う。

「陽、今日は術式を組み上げてみろ。どんな物でも良い。大きさも任せる」

術式とは、簡単に言い換えると魔法陣の形式である。
そこに力を入れる事で魔術が発動。いわゆる魔法が使える訳だ。

「……」

陽が目を閉じると、足元から小さな青白い円形の光が現れ、それは次第に大きさを増し、床を覆い尽くす程となっていた。

「こ、こんなもんか?」

「大きさは置いておくとしよう。構成、魔力の流れは問題ないが……ところで、これは何の術式だ?」

「……さあ?」

頭を掻き、首を捻る。
自分で創った術式だが、何が発動するかまでは分かっていないらしい。
言い分は、「とりあえず創ってみた。何でも良いって言ったじゃん?」だそうだ。

「まあ良い……発動してみれば分かる」

「ああ。……行くぜ?まともなの来てくれよ!」

再び目を閉じて意識を集中させると、魔法陣全体が淡く光始める。淡いものから濃く色付いていくのが目に見える。
供給された魔力は、魔法陣の縁を辿り、それから、記号みたいなのを青く染め上げた。
そして、陽の足元が一番光を放つ。
準備万端、次の一声で発動する事が出来る。

「発動!……うお!?」

目を開けてみると、眼前に光の球体が浮遊し、鼓動を打っている。
何というか、今にも爆発を起こしそうな、そんな状態。

「あー多分これは爆発するパターンじゃね?見た目からしてさ。とりあえず防御の術式を……ってどうやるんだっけな?やべえ、どうしろってんだ!」

「慌てるな!アレを破壊すれば止める事は出来なくとも、威力を分散する事は出来るはず」

こんな時ほど冷静な判断が出来る白銀が居て良かった、としみじみ思った事は無い。

知らず知らず手に取っていた白銀を構える。結局いつもこうなるのだ。

「行けるか?」

「当然!」

陽はこの時、まさか触れた瞬間に爆発するなんて思いもしなかった。
斬ってからなら分かるが、ちょんと切っ先が触れたかどうかで割れるなんて。
名付けて術風船。

午前十一時頃、龍神家に轟音が響いた。
幸い結界を張っていたため、周りに気付かれる事は無かったが、道場は勿論、陽も煤まみれだ。

「あーあ。大事な道着が……あと何着あったけ?」

「知らん。……術式に関して、一からやり直したらどうだ?いや、やった方が身のためだぞ」

陽は得意の水気の術を使い、煤を綺麗に拭き取っていく。
こういう事には、術を使うのが上手い。先程の術式と比べれば、かなり繊細な作業なのだが。

「はあ……この後何すっかな。家出るなって言われてるし。……見つかるのはイヤだしな」

断っておくが陽は今停学処分中である。
月華の話では、家の門の外に教師が見張っているとかいないとか。

「どこの犯罪者だ俺は……ん、メールか?あれ、携帯どこ置いたっけ」

音はする。だが、置いた場所が思い出せない。

「服の中だ」

そうだった、と思い出してなるべく離してあった私服のポケットを探る。

「お、あったあった。先輩から?えー何々?『今日の丑三つ時に学校な〜』藁人形でも使うのか?」

和服に携帯はミスマッチだ。
時代感覚が明らかにおかしい。
陽は特に気にしていないが、見ていると凄い変な感覚になる。

幸輔のもくろみは分からないが、行くしかないと判断した。

「あとは乾かすだけだな。風、だから……木気か」

人差し指を弾くと陽を中心に風が広がる。水滴を瞬く間に乾かし、道場は修行の始まる前よりも綺麗になった。

「……どうしてこういう力加減は出来て、戦闘となると駄目なんだ?」

白銀が人の姿だったら溜め息を吐いていただろう。
それくらい戦闘の時との差が大きいのだ。

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