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〜龍と刀〜
転入生は美少年!?U
やけに静かな教室内には、トットットッ……と妙な音が響いている。
教師が黒板に書いている訳ではなく、時計の時間を刻むような物でもない。

音の主は陽。
腕を組み、右手の人差し指と中指で制服を貧乏揺すりよろしく叩いている。
実は、三時間目辺りからずっとこんな感じが続いているのだ。
今にも爆発しそうな程の目つきと雰囲気。キレているという表現がぴったり合う。
もう一人は雹だ。
先程指名を受け、英文を黒板にサラサラと何の苦も無く書き綴っていく。
英語の場合、字が上手い事を達筆だ、と言うのだろうか?
流石は自称外国暮らし。その名は伊達じゃないらしい。

異様な空気に周りも押し黙っている。若干一名空気が読めない奴がいるみたいだが、敢えてそこはスルーしようとなっていた。

「終わりましたよ。先生」

雹のよく通る声が響き、教師を動かす。

「す、凄い……ありがとね、氷室君。戻っていいわよ」

確かに凄い訳だが、凄すぎて読み取れない箇所が多々ある。
流石に教師は読めるらしい。ここで読めないなんて言える訳がない。

笑顔で会釈をし、席へと戻る。
陽は横目で、通り過ぎる雹を睨むが、雹はまったく怯むことは無かった。

前の授業に遡ってみると、雹は天才並に頭が良いみたいで、全ての授業に於いて教師を感嘆させる。
その度に陽の怒りが溜まっていくのだが……。いつ爆発してしまうか分からない。そういう時は距離を置くのが一番だ。

授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。

「じゃあ今日はここまで。宿題忘れないようにね」

それだけ言ってそそくさと教室から逃げていった。

「くそが……(あぁやべえ……胸くそ気分悪いな。一週間も保たねえぞ)」

小さく悪態をつき、席を立つ。行く先は決まっていた。
怒りオーラを放出しながら、教室の戸に向かう。異様な雰囲気の陽の道を開けようと、皆が皆散らばる。

「陽ちゃん!どこに−−」

行くの、と言う言葉は出なかった。月華の肩に手が置かれたのだ。

「今は、やめた方が良いと思います……龍神さんは怒っています。だから」

クラス委員長、春空だった。彼女もまた陽の異変に気付いていた一人だ。だから、そう言った。
今の陽には近寄らない方が良いとまで言われた。
だが、月華は心配でならなかった。今までで一番ひどい怒り方だったから。
怒りをぶちまける訳でもなければ、暴力を起こしたりする訳でもない。ただ、無言で誰も近づくなという強烈な気配を漂わせる。
話し掛けた時、一度だけ見えた瞳は本当の怒りに燃えていた。恐怖さえ感じた。ただの一度もそんな感情を陽に抱いた事は無かったのに。
それは月華だけではなく、陽の周りの友達、井上や中島、春空だってそう感じた。

すると、後方で椅子が動く音がした。

「僕が見に行きますよ」

雹だった。真剣な眼差しで行かなければならないと訴えている。

「で、でも……」

「任せて下さいよ?こういうのには慣れてるんです」

得意の笑顔が月華にとっても春空にとっても、気に入らなかった。
慣れている。
そのような事の対処法は分かっている、だから任せろ、そう言っている風にしか聞こえない。
つまり、そういう輩と陽を一緒にされたのが気に食わなかったのだ。
月華はやめて、と言っているのに無視して行ってしまった。

「私、あの人とは友達になれそうにないかな……」

いつもの月華からすれば、有り得ない言葉だ。
それ位、雹とは反りが合わないみたいだった。

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あきゅろす。
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