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〜龍と刀〜
浮ついた空気W
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時間はあっという間に過ぎ、既に午前中の授業は終了。昼休みだ。急いで財布を準備して購買に向かう者、弁当を鞄から取り出す者、まだ写し終わっていない黒板を必死に書く者、と教室は既にがやがやとした空気に包まれた。
そんな中、今頃気だるそうに教室へ侵入して来る人物が一名。

「お、龍神じゃんかー!遅刻だぜ?」

「……」

「今日はいつになく遅かったね。どうかしたの?」

「よお中島。気付いたらもう十時でな?これは面倒だし午前はサボろうという考えの結果」

最初に話し掛けたはずの井上を眼中に入れる事なく、中島との会話へ。相変わらずの扱いにギャーギャー騒ぐが、相手にするのは億劫だ。

「幸いな事に飯も食って来れたから休みを満喫出来る訳だ」

「え?なに、完全にスルーしてんの!?」

自分の席へ到着し、適当に座る。視線を巡らすが、どうやら月華は居ないらしい。何とかこの時間の追及は逃れられるみたいだ。
結局あのあとは、幸輔との組み手をある程度やると、陽は気持ち良く二度寝。そして今に至る。

「なあなあ、そんな事よりそろそろ十二月になるぜよ」

「お前の無視されてても突っかかって来るその精神は凄いな……」

「きっとそこすらも考えて無いから、これなんじゃない?」

「あぁ。納得」

「おい!聞いてんのかよぉ!」

面倒になってきたので仕方なく会話に入れてやる事に。陽の感覚では井上が勝手に独り言を言っていたので耳に入れなかった、というものだとか。

「はいはい。それで何だっけ?」

「いや、ほらそろそろ十二月だろ?どうするって話」

「……それさ、龍神が居るところで話さなくても。傷口に塩塗ってない?」

「良く考えろ中島!せっかくのメガネが泣いちまうぜ!」

こちらも相変わらず眼鏡という存在が定着して来た中島は、嫌そうに肩を落とした。陽はその様子を見て初めて井上が面白い事を言ったのでは、と目を丸くする。

「そもそも井上から考えろって言われるのが気に食わないんじゃないか中島は?」

「さすがにちょっと傷付くね……でも眼鏡って全面的に言い出したのは龍神だからね」

「……そうだったか?」

「しっかり覚えてるよ」

根の深い所に傷を作ってしまったのか自身の眼鏡に触れつつ井上に続きを促す。

「それで?さっきは何が言いたかったの?」

「ああ!それは、だな−−」

いきなり陽の背後に回って両肩をがっしりと掴む。手首を掴んでそのまま投げ飛ばしてしまおうかという考えがよぎったが、ここは大人の対応。

「−−龍神のおこぼれに預かろう!って話だ!」

無駄に大きな声で高らかに。いきなりの大声に、近くに居た陽と中島だけでなく教室全体が一瞬だけ静かになった。しかしその原因が井上だと分かるとすぐに自分たちの世界へ戻っていったのだ。

「……お前、何言ってんだ?というかそもそも十二月だから何?」

「コイツ、自分はいっつもハーレム状態だから気にしていないのか……!」

「答えないとぶん殴るぞ?」

「くっ……!十二月と言えばなんだよ龍神!」

何やらそんな問い掛けが飛んで来たので、少し頭を働かせてみる。十二月、真っ先に思い浮かんだもの。

「冬休み」

「ちっがーう!近いけど違う!」

「いい加減イライラして来たな」

未だに肩に置かれていた手を掴み、それなりに力を込める。午後であり、体もしっかりほぐれているので万全の状態で力を発揮出来るのだ。

「ちょ、やめっ!……いってぇなぁもう……」

「龍神、クリスマス」

「あーそっちな」

見かねた中島がフォローを。話が進まないと感じたのだろう。

「で、だよ。どうせ龍神は女の子と過ごすんだ。だったらそこに俺らも呼んで−−」

痛めた手をさすりながら自分のアイデアをぶつけてみると。

「無理だな」

「即答!?」

「龍神……さすがに独り占めってのはどういう魂胆なのかな?」

玉砕した驚きの声と少しばかり怪訝な声を上げる二人にどう答えるか思考を巡らす。

「まずだ。予定とかねえ、し……」

そこで、一つ考えてしまう。紗姫には答えを出すと言っている事を。引き伸ばして本当に良いのかと。せっかくのクリスマスというイベントが待ち構えているのに、しかし今はまだ他にもやらなければならない事があるし、毎年月華の家に呼ばれるし、年末には頭首会議が京都で−−

「ダルい。寝る」

−−思考停止。知恵熱が出るのを寸前で回避するため、自分から接続を断つ。机に突っ伏して睡眠モードへ。

「はぁ!?龍神!答えろって!お前だけがピンクなイベントとかマジでふざけんな!」

「そうだよ龍神。今微妙に沈黙したよね?」

何だか頭上が騒がしいが気にしなくて良いだろう。二度寝はしたはずだが、今日はもう少し寝たい。大きな戦いもあったし、と言い訳しながら。

「逃げるなー!」

逃げたい訳じゃない。立ち向かう武器が無いだけだ、と珍しく弱音を吐きながら。ゆっくりと、自らの内から呼び出した睡魔に意識を委ねたのだった。

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