〜龍と刀〜
浮ついた空気V
−−陽と幸輔が体を動かすのに熱中し始めたそんな頃。真面目に登校していた女子二人は授業前の朝の少ない猶予時間を賑やかになってきた教室で過ごしていた。紗姫は別のクラスなのだが、どうやら教科書を借りに来たついでに話に加わっているようだ。
「それにしても……何かこう、皆妙に浮き足立ってない?」
「そうだねー。でも見てると楽しそうでこっちも楽しくなるよ」
相変わらず純粋な月華の答えに、そんなものかな?と首を傾げてみる。
この不思議な空気の理由が気になったので聞き耳を立ててみると−−もちろん狐の耳は出さない−−、近くに居た春空がいつも通りのゆったりとした喋りで会話に参加して来た。
「皆さんが話してるのは、クリスマス……じゃないですか?」
「そっかぁ……あと少しで十二月だもんね!楽しみだなー!」
「早いものね。……クリスマスか……」
単純にクリスマスが来る事に対しての喜びを表現するのと、何やら想像したのか頬を赤く染める方と、二人共別々の反応を見せる。
「予定がある人たちは羨ましいわ……」
「月華も八雲さんもどうせ予定あるもんねー?」
そんな会話をしていると、クラスの女子二人が新たに割って入った。どうやらこちらは余り良く思っていない組だろうか。
「え?別にまだ予定なんか無いよー?」
「そ、そうよ。クリスマスだなんて全く考えて無かったし……」
「ウソだーどうせお二人さんは愛しの彼と過ごすんでしょー?」
「い、愛しの……!?」
若干一名すぐさま反応。耳まで真っ赤にしているのだが、何とかその動揺を隠そうと借りた教科書を意味もなくパラパラと捲っている。
「陽ちゃんの事?それなら毎年一緒だよ?」
「!?」
「あらあら。そうらしいですよ八雲さん?」
「……別に動揺なんかしてないわよ?ちょっとつつかないでっ」
紗姫の不思議な様子に気付く事もなく平然と言ってのける月華。それをニヤニヤしながら弄られる。
「だってパーティーとかしないと、陽ちゃん外に出ないし……だから毎年、お父さんとお母さん、私と陽ちゃん、それに道場の皆さんで楽しんでるの」
「とても、楽しそうですね」
「うん!望ちゃんも来る?大歓迎だよ!」
至極当然のように、明るい笑顔で。
「ははぁ……これは強敵ですよー八雲さん?」
「だ、だから何でさっきから私ばっかりなのよ」
「だって予定が無いのは悔しいけど、面白い事になりそうだし。ねー」
「うんうん」
この二人は完全に紗姫を弄る事にしたらしい。多分だが、月華があまりにも純粋なので標的を変えたのだろう。
「どうする?やっぱりミニスカサンタでもやるの?」
「やらないわよ……!」
「あー八雲さんのその羨ましいスタイルなら露出度高めのが……」
「だからっ!」
分かり易い反応が返って来るのが楽しいのか、更に追撃を開始。
「もういっそ『私がプレゼント』とかやっちゃえば?リボン巻いて上げるからさ?」
「それならさすがにあの龍神君でも−−」
「や、ら、な、い!私、授業あるから!」
顔は耳まで真っ赤で目に微かに涙を溜めて逃げ出す。ただ逃げ出してからちょっと考えた。自分の体にリボンではなく敢えて繰影術を−−
「なによそれっ……!」
−−思考を消去するために頭を振る。
「あれ、紗姫ちゃんどうしたの?」
「何だか急いでましたね」
「まあ大人の事情?」
「そんな感じだよねー」
原因を作った二人は何事も無かったかのように会話を再開していた。
「そろそろ授業だけど……陽ちゃん来ないなぁ」
勿論、陽が今頃楽しそうに幸輔と組み手をしているだなんて、誰も知らない。
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