〜龍と刀〜
浮ついた空気T
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−−翌朝。結局昨夜の組み手は引き分けという形で幕を閉じたのだが、そこで二人が力尽きてしまいそのまま道場で眠ってしまったため残された女子二人は仕方なく朝食を運んで来たみたいだ。
「くっ……久しぶりにこっちで寝たらめちゃくちゃ背中が痛い……しかも寒い……眩しい……」
「ボクはそうでもないよ〜?龍神は寝癖も寝起きもヒドいね〜」
「あり得ない……」
相変わらずの寝起きの悪さに更に寒さと痛みが加わって余計に眠たそうな陽と、それとは対照的に疲れの欠片すら感じさせない幸輔。
「確かに龍神君の朝の弱さは異常だけど、朝からそのテンションの先輩も異常よね」
「元気な事は良い事だよ。それに比べて陽ちゃんは……」
「隙あらば寝ようとしてるよね〜」
三人の視線など全く気にせず大きな欠伸を一つ。差し込む太陽の光に目を閉じ、無造作に頭を掻く。陽としては普段と何ら変わりないのだが、周りから見れば浮いているらしい。
「……大丈夫。起きてるから」
「意識はね〜?」
バシバシと幸輔に背中を叩かれて何とか覚醒をし始めるが、完全とまでは程遠い。
「この調子だと当分動き出しそうにないけど……どうする紗姫ちゃん?」
「率直に言うと、遅刻したくはないわね」
「ん〜じゃあ二人は学校向かっちゃいなよ〜。この寝起きがヒドい男はボクが責任を持って連れてくよ〜」
既に制服に着替え準備も済ませている二人を巻き込むのも悪いと考えたのか、そう促す。幸輔としてはこの時間帯に男女で登校するのは自分の性分じゃない、どちらかと言えば遠くから見てからかったりする方が楽しいとも考えているらしい。楽しさ重視だ。
「普段だとご飯があれば起きるんだよ?」
「よほど疲れてたのかしらね……」
「そりゃああんだけ戦った後に体動かすだなんて真似してるし〜?普通なら倒れててもおかしくはないよ。特に月華ちゃんみたいに今まで戦闘に出た事も無いような人間だとね〜。いやはや本当に凄いよ〜」
パチパチとにこやかに陽を少し貶しつつ、月華を褒めると照れたように笑みを作る。
実際幸輔の言う事は正しいのだ。一切の経験が無いはずの彼女があれだけの大きな長時間の戦闘に参加して、無傷で普段と変わらずに元気でいられるのは相当難しい。勿論彼女の場合は月詠の力を借りているが、肉体そのものは月華自身の物。何らかの消耗があっても良いはずなのだ。
「ねえ、私も頑張ったんですけど?」
「知ってる知ってる〜。たまたま話の流れでそうなったんだよ〜?だから影はしまってくれるかな……?」
知らない間に足元に伸びていた紗姫の影に捕らわれないようにと半歩移動。そして紗姫の事も考えてみた。
彼女は元々、獣族の血が流れているという事もあって普通の人間と比べれば基礎的な能力は高い。それに“操影術”という高度な魔術。一体どれだけの消費があるかは謎だが、これも想像している以上だろう。
「だから〜とにかく二人は学校に行きなよ〜。遅刻しても知らないよ〜」
「そうですね……それじゃあ陽ちゃんを学校まで、お願いします」
「あい、任された〜」
食器を纏めつつ退室の準備を進める二人に手を振りながら、未だに眠りの世界に戻ろうとしている陽を揺らす。
そうやって明るく振る舞う幸輔にも、勿論多大な消耗があった。
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