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〜龍と刀〜
裏と裏X
攻防は一瞬。引きちぎられた術の鎖が霧散し、そこを狼男が吼えながら突き進む。彼の足で距離を縮めるのは容易く、直ぐにアスラの目の前でひびの入った爪を翳す。
だが、その速度でも遅すぎた。
その真正面から、漆黒の右腕が獣の腹を見事に貫いていたのだ。

「グ、オ……ォ!」

コポコポと白い牙の隙間から溢れる真っ赤な液体。痛みよりも、伝わってくるのは熱さ。体の中心が燃え上がるようだ。それでも彼は、彼の意志は屈する事なく自らの仲間を傷付けた者への攻撃を試みる。振り上げた爪に微かな光が宿り元より鋭利な爪に変化。輝くそれは、彼の魔術で構成された力の具現。攻撃の意志を宿した、最大の−−

「さすがは獣の血を引く者です。ですが私にその爪は届きません」

腕は突き刺したまま、残ったもう一方を下から振るう。最後の希望を打ち砕く為。
その時だ。アスラの前に真っ白な霧が突如として出現。黒翼をはためかせ、それを吹き飛ばすとそこに現れたのは狼男の外見をデフォルメしたかのような風船だった。

「うん。どうやら大成功だったみたいだね〜」

「す、済まない……手間を、取らせて……」

「何。仲間を助けるのは当然の事であろう?だがしかし、この状況は些か不利と見えるな」

忍者が得意とする変わり身という物を作り上げて救出し、再びアスラと睨み合う形を取る『御門流』頭首、そしてその孫。しかしその二人以外に人影は見当たらない。またどこかに身を潜ませているのだろうか。

「幸輔−−わかるな?」

「……ん〜やれるだけやってはみるけどね?期待はしないで欲しいな〜」

アイコンタクト、それと読唇で郷一の言いたい事を瞬時に理解した幸輔。普段の緩んだ表情は一転、細く鋭い目が開かれる。

「勿論やるからには本気でやる必要があるんだけど」

デフォルメ狼男から腕を引き抜いたアスラは全く動かずに幸輔と対峙。

「……今度は貴方が相手ですか」

「まあまあ。そう嫌な顔はなさらんでよ−−」

離れた距離、先程とはまるで違う雰囲気を放つ幸輔はどうやら本当に戦闘態勢のようだ。両腕をだらりと下げ、丸腰だが。

「−−何て言ったって、もう始まってるんだからね?」

宣言したと同時にアスラの足元から無数の武器−−忍の道具であるクナイ−−が飛び出したのだ。これにはさすがに対処が追い付かず、数歩も後ろへと下がる。

「……!」

そして顔を前に向ければそこに幸輔の姿は無く、

「ボクらには正々堂々だなんてのは似合わないからね〜」

直感。足を軸に右腕を全力で振り抜く。背後に忍び寄っていた幸輔へと一撃を入れた、はずだった。

「これは……」

先程も使われた変わり身だ。今回はデフォルメ幸輔で、アスラが一撃当てると同時に破裂。

「幾らだって出せるんだよ?一回限りな訳無いじゃな〜い?」

「……本体に当ててしまえばそれまでです」

掌に魔法陣を展開し、無数の弾丸を作成。それを幸輔に向けて連射。
雪の地面を抉り、それすらも粉々にして消し飛ばす威力だ。何としても当たる訳にはいかない。足場の悪さを諸ともせず身軽に回避をしていくが、ここはどうしても被弾してしまう。

「くっ……!」

痛みに顔を歪ませるが、弾丸の雨は降り止まない。

「幸輔、今だ!」

遠くから郷一の鋭い声が飛ぶ。ハッと振り向いて待ってましたと言わんばかりに服の中から紙束を取り出した。それをばら撒き、呪詛の言葉を紡ぐ。

「“彼の地へ、我等の願いを、移せ”」

短く。それだけで良かった。宙を舞う紙束はそれぞれが発光し、その光で“この場”を照らす。

「逃げますか」

「……元々我等には時間の制約があった。手の内は晒さんが」

そんな郷一の声を最後に、全てが“消えた”。アスラを残して。
山肌に残るのは裏に生きる者達に破壊しつくされた空間と、漆黒の騎士だけだった。


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