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〜龍と刀〜
裏と裏U
アスラの声が耳に届いたと思えば、ザッ……と瞬時に周りを囲まれていた。やはり手にはそれぞれ武器が。剣や斧、槍に槌と様々だが、どうやらかなり訓練されているらしく、獣の手でも力強く持つ事が出来ている。

「一つ問います。貴殿は、人でありたいと望んだ事はありませんか?」

上空。アスラが翼をはためかせてそう狼に質問を投げかけた。

「何……?人でありたいだと?」

怒りに血塗られた瞳に疑問の色が混ざる。だが、答えは直ぐに出た。

「無いな。確かに人化という術は得た。しかしやはり元の姿で仲間と森を駆け回るのが一番心が安らぐな」

強い眼差し。諦める事を知らない心は、この状況を打破してアスラをどう倒すのか、それしか無い。野性的な感覚だけを頼りにその機を狙う。

「そうですか。……交渉は決裂のようです」

構えられた武器のそれぞれが、狼に向けて一斉に飛びかかる。
そんな時だった。

「まあまあ〜、そう急ぎなさるなって〜」

場に似つかわしくない間延びした声と、複数の足音。

「誰だてめえ……ガキか……?」

「ん〜?ボクは別にあなたとは顔を合わせた事無いし〜。でもじっちゃんなら知ってるよね〜」

近付いて来た影は、幸輔と『御門流』頭首御門 郷一(ミカドキョウイチ)。そして『御門流』の弟子たちだ。
現れたと思えば瞬時に獣の群れを地に伏させる。統率された素晴らしい動きだ。

「久しいな、山路殿……まずは先に謝罪をさせてくれ。貴殿を囮に使わせて貰ったことを……」

急に現れた全員が頭を下げ、謝罪の意を見せた。
その行動に山路(ヤマジ)と呼ばれた狼男は理解が追い付かず、鋭い牙を並べた口を呆けたように広げている。

「だが、詳しい話は後だ。まずは目の前の標的を打ち砕くのが先決−−」

黒装束の集団が音も無くアスラへと何かを投擲。
直後、強烈な閃光と熱風が辺りを支配し、雪を巻き上げてまるで吹雪のように地面を襲う。

「−−それに、こちらには余り時間という物が残されてはいない。協力願えるか?」

狼男の瞳を射抜く頭首の目。そこには狼男にすら負けない程の熱い闘志が感じられた。

「構わないが、忍の流派がどこまで出来るのか……それがわからないことには……」

「そこは心配いらんよ。何せこの場と繋いだのはこれだ……それに、主流の忍と我らでは根付いてる物が違うのだよ」

少し後ろに居た幸輔を指差し、それから強く言葉を放つ。

「我らには我らのやり方があるそれを邪魔されたのなら、反撃しない訳にはいかぬよ」

懐から短刀を抜き、煌めかせる郷一。続けて幸輔が狼男の前に立ちはだかり、宣言する。

「そう……それにボクらの仕事は本来裏方なんですよ。こうやって表立ってやろうだなんて−−」

普段からの雰囲気とはまるで別の、研ぎ澄まされた抜き身の刃のように鋭い殺気が雪上を駆け巡った。

「−−プライドに傷付けられたら仕方ないでしょ」

爆風が晴れる。
それが開戦の合図となった。

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