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〜龍と刀〜
裏と裏T
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視界に広がる満天の星空。吹く風はすっかり冷気を帯び、ちらほらと雪も混じっている。
早くも雪の積もっているそこは、どうやら山肌らしい。

「はっ……あんたらが今界隈を騒がせてる鎧騎士とご一行か?お会い出来て光栄だぜ」

吹き荒ぶ風を諸ともしないのか、比較的平坦な場所に立つ一人の男。山の中だというのに肌の見えるシャツ一枚と、とてつもない軽装だ。普通の人間がするような格好ではない。

「報告通りなら、余程の手練なんだろうが……ここの縄張り(シマ)に土足で上がって来られちゃあ、協会の命令も無視するってもんよ」

威嚇するような低い声を対峙する者にぶつける。
反対側、まっさらな雪の上に異様な存在感を放つ黒い甲冑、アスラだ。漆黒の翼を大きく広げ、男の声を真っ正面から受け止める。その周囲には似たような鎧を一部に纏った獣たち。一概にそう言うには難しいのも見渡せば居るのだが、男からしてみれば獣だ。

「上がり込むだけならまだしも……何故仲間にまで手ぇ出した……?答えろ!!」

降り出した雪を跳ね退ける程の大音声を響かせ、空気を震わせる。男の背後には沢山の同朋が血を流して無惨にも転がり、雪によって隠されようとしていた。吼える双眸には鋭い輝きと大粒の涙。

「……私たちには、私たちのやるべき事があります。もし、賛同頂けるなら貴方たちも同志に−−」

兜の向こうで淡々と語るアスラ。
それに業を煮やした男は、再び吼えた。力の限り。二度と開かれる事の無い仲間たちの仇を打つ為に。

「グオオォォアアァ−−!!」

男の筋肉という筋肉が膨れ上がり、バキバキと異質な音を立てながら骨格が変わる。元々小さめだったシャツは全て破けて風に流され、残された体にはびっしりと毛が。対峙している獣たちと同じような物だ。色は灰色。

「お前らがしようとしている事なんざこちとら知った事じゃあねえんだよ!てめえは……てめえは、自分の仲間が命奪われてどう思う!?」

怒りに燃える男の顔は凛々しい狼へと変化し、口には鋭い牙が大量に生え揃い、太い腕の先にも鋭い鉤爪が出現。この姿こそ、男の本来の姿である獣族だ。

「獣族狼種の血に懸けて、てめえら全員……喰い殺す!」

強く地面を蹴り、まるで瞬間移動でもしたかのように近くに居た獣へとその鉤爪を突き刺し、続けざまに首筋に牙を立てる。叫び声すら出せずに鮮血を撒き散らす獣に、アスラはと言うと。

「……」

無言。その兜の奥でどんな表情をしているのかもわからず、仲間がやられているのに何ら行動を起こそうともしない。ただ、サーベルの柄に手を添え事の顛末を見ているようだ。

「あんなの下によくもまあ付いてるよなあ、西の獣共よぉ!そんなに自分の欲望を叶えてえのかァ!」

血に濡れた牙をぎらつかせながら吼える狼。
そんな言葉には瞬きすらしないアスラの部下。

「相容れねえな……!獣なら獣らしく、吼えてみやがれ!」

再び地面を蹴って今度はアスラに接近していくと、何匹かが狼の前に立ちはだかる。すると、その手には奇怪な紋様が出現し、光と共に武器が握られた。

「……“らしく”は彼等にはもう古い言葉です」

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あきゅろす。
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