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〜龍と刀〜
望む事なら平和をU
不意打ち。滑らかな動きで抜かれたのは二丁の拳銃。一瞬の煌めきに遅れて響く数回の銃声。

「この程度で倒れると思っているのなら……貴様は甘いぞ詠士?」

常人なら避ける事は疎か反応も出来ない銃からの一撃を、防ぐ。何の動作も無く得意の火気魔術を発動させ、足元から炎の柱を出現させたのだ。
建物内の熱気は急上昇し、冬に向かおうとしていた風も燃えるように熱い。

「分かっているさ。だから今のは“普通の”銃弾だったじゃないか」

帽子の下、無精髭を蓄えた口元を不敵に歪ませる詠士。その伸ばされた両腕には黒く重厚そうな拳銃。

「本気で俺様をやろうって言うなら容赦なんざしねえが……覚悟は良いか」

腰元の木刀を抜き放ち、炎を乗せる。相手にどんな理由があろうと襲いかかって来たならば、敵なのだ。

「覚悟も何も、こっちはそのつもりで追ったんだ。多少狭いのは勘弁しといてやるよ。ああ、結界はオレが張っておいたから存分に動けるぞ」

「相変わらず口の多い奴だ……!」

始まりは唐突だった。睨んでいた銃口から光が走り、十六夜目掛けて鉛弾が放たれる。空気を切り裂きながら飛ぶ弾を木刀を振るって焼き払い、強く地面を蹴って間合いを詰めようと動く。相手が銃ならばこれは必然の動きだろう。
対して詠士もそこが弱みだというのを理解している。瞬時に自身の足元に数発の弾丸を撃ち込む。その数発だけで魔法陣を形成し、魔術を発動させるのだ。

「“吹き荒れろ”……!」

始動キーとなる魔力を込めた弾丸を更にその陣の中心へ。すると、輝きを増した陣から突如として小規模の竜巻が起こる。
地に足を付けていなかった十六夜は体勢を崩され、見事に後方へと吹き飛ばされてしまった。そこへすかさず追撃。弾丸に魔術を込め、発砲する。
不安定な体勢では高速で飛来する弾丸にまともな対処も出来なかった。数発を炎弾で潰したが、間に合わなかった物は皮膚を切り裂く。
熱い、冷たい、入り混じった感覚が十六夜の体を襲う。
しかし、この程度の“かすり傷”で倒れる程、弱い人間では無いのだ。

「やるじゃねえか詠士。昔に比べたらな。だが−−」

まるでダメージが無かったのか、当然の如く立ち上がり、未だにくわえていたタバコを吐き捨てる。

「−−まだまだ俺様の足元にも及んじゃいねえな」

木刀を硬いコンクリートに突き刺し、魔力を通す。不気味に振動する地面。

「いや、本当にタフだよ十六夜は……笑うしかないな」

呆れたように笑みを作り、正に脱帽しているようだ。
振動はやがて、更なる熱気へと変化。

「まあオレもここで負ける気にはならないんでね」

弾倉を新たな物に詰め替え、構える。

「成長を見れたのはなかなか面白いが、俺様に挑んだのは失敗だったようだな詠士」

そして、強烈な光と共に再建途中のビル内を廃ビルへと巻き戻す爆風が吹き荒れた。


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あきゅろす。
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